のらり 大好評連載中   
 
■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
第159回:私設軍隊大行進
更新日2010/05/20


私のお父さんが子供の時分、戦争ごっこといえば、ジャップキリング(日本人やっつけろ、殺せ)遊びがとても流行ったそうです。

すでに大昔のことになりますが、初めてうちのダンナさん(日本人)を田舎のおばあさんの家に連れって行った時、私のおばあさんが彼をジャップと呼び、私の方があわてたことがあります。

おばあさんはジャップが蔑称ではなく、単なる愛称だと思っていたのです。そんなことに頓着しないうちダンナさん、おばあさんが亡くなるまで、とても仲良くなり、たくさんいる孫のダンナさんや奥さんたちのなかでも、おばあさんの一番のお気に入りになりました。

アメリカで戦争ごっこが流行りはじめました。でも、子供の遊びではなく、大の大人が本当の鉄砲やピストルに身を固め、仮想の敵を想定し、トレーニングに励み、実戦の訓練をしているのです。

機関銃くらいまでは自由に買えますから、軍の払い下げ専門店やメールオーダーで戦闘服、ガスマスク、ヘルメット、暗視鏡、通信機器などを揃え、階級も付けて本格的な戦争ごっこをしているのです。

奇妙なことに、それらのすべてが熱心なキリスト教徒グループなのです。狂信的と言ってしまえばそれまでですが、キリストの再来があるから、それまでに諸悪の根源を絶滅するとか、もうすでにハルマゲドン(地球が滅びる最後の日)が近づいているからその準備だとか言い、聖書にある『右のホオを打たれたら、左をホウを出せ』という教えは忘れられ、もっぱら彼らが敵と見なした者は殺せという心情に従っています。

これと同じ軍事訓練をモスリム、ヒンズーなどの異教徒が行ったら、FBIは計画の段階で潰しにかかるでしょうけど、狂信的な愛国キリスト教徒が私設軍隊を作っても、その団体が具体的な行動を起こすまでは野放しなのです。

3月27日にFBIの囮捜査に引っかかり逮捕されたグループ、9人は地元の警察官を殺し、そのお葬式に列席する警察のエライサンも殺すという計画を立てていました。それがミシガン州の人口300人のクレイトンという田舎町でのことです。そして、このグループも自らを敬虔なキリスト教徒であり、今の政府はキリストの教えに沿っていない、だから田舎町のお巡りさんを殺すと、全く論理や筋道が通らない理屈で私設軍隊を作っていました。

このような、私設軍隊が1年間に244パーセントも増え、2009年には推定で512団体(軍隊?)になってしまいました。戦車や大砲こそ、手に入れるのは難しいようですが、それ以外の装備はなかなかたいしたもので、私のような素人の目からすれば、本当の軍隊と変わりありません。

大きな火器を持っていないからといって安心できません。オクラホマシティーの政府ビルディングを破壊したのは農薬から造った手製の爆弾ですし、税制に不満を持ったアンドリュー・スタックさんが、自家用飛行機で税務署に突っ込み、自爆したのは記憶に新しいことです。

神風特攻隊は日本の専売特許だと思っていましたが、アラブのテロリストが大いに神風精神を真似、ついにアメリカ人まで真似するようになったのです。

自分を守るために武器を持つ自由を掲げる人たちは、その武器で人を殺す自由も持っていると思っているのでしょう。

何事も力と暴力で解決しようとするアメリカ人に絶望しそうになるこの頃です。

 

 

第160回:自由教育と放置教育=無教育

このコラムの感想を書く


Grace Joy
(グレース・ジョイ)
著者にメールを送る

中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

■連載完了コラム■
■グレートプレーンズのそよ風■
~アメリカ中西部今昔物語
[全28回]


バックナンバー

第1回~第50回まで
第51回~第100回まで
第100回~第150回まで

第151回:トヨタのリコール騒動
第152回:マリファナ治療?
第153回:旅の疲れか、疲れる旅なのか?
第154回:ガンを抑えるのはガン?
第155回:女の戦争
第156回:母乳と哺乳瓶
第157回:山の春とスカンク
第158回:マグロの怪

■更新予定日:毎週木曜日