第175回:またまた社内共通語としての英語
一昔前、国際人として一番世界中で名前の知られている日本人は、オノ・ヨーコさんとソニーの盛田昭夫氏でした。
残念ながら、私はお二方が英語で話すのを聞いたことがありません。盛田さんのほうは何冊か初めから英語で書き、英語で出版されたもの、日本語から英語に訳されたもの、ほかにもタイムやニューズウイークの記事で読みました。
彼の英語が"ネイティーブ"のようでもなく、流暢ではあるけど"抜群"でもなかったことはよく知られています。彼より英語が上手な人はソニー社内にも何百、何千人もいたでしょうし、若い時に英語圏に数年留学した人なら、彼よりはるかに流暢な英語を話すことができるでしょう。
ですが、盛田さんが"抜群のコミュニケーター"だったことは疑う余地がありません。
インタビューやスピーチを読むと、彼がユーモアをたくさん交えて、聞き手、読み手の注意を逸らさずに自分の言いたいことを相手にきちんと理解させていることに驚かずにはいられません。やはり一種の天才でしょうね。彼が英語を単なる道具として使い、道具よりももっともっと大切なコンセプトをしっかりと持ってたのでしょう。
自動車の部品メーカー"ユーシン"が次期社長を公募しました。2ヵ国語以上に堪能なことという条件で、年俸3,500万円です。2ヵ国語以上を操れ、交渉できる人(自称ですが)1,722人が応募したそうです。そんなにたくさんバイリンガルの人が日本に埋もれていたことに驚いたのは私だけかしら。
日本電気では、部長になるには2ヵ国語以上をマスターしていなければならない方針を打ち出し、2020年から実施するそうです。
以前書いたユニクロは、2012年から社内公用語を英語にするといいますし、楽天は社長さん自ら先日の決算報告を英語で行い、やはり2012年には英語を社内公用語にするそうです。
韓国のサムソンエレクロニクスでは、すでに英語を社内共通語にしています。
毎日新聞がインターネットを通じて行ったリサーチでは、社内共通語を英語にすることに賛成が43パーセント、反対が57パーセントと出ています。そして、恐ろしい質問、もしあなたの会社が社内共通語を英語にしたら、会社を辞めるが9パーセントしかおらず、断固日本語で通すが24パーセント、しかし、健気にも英語で対応できるように勉強するゾというのが、なんと60パーセントもいるのです。
その人たちは生活がかかっているのですから、必死なって勉強するでしょう。親のすねをかじっている学生さんよりズーッと早く、確実に実戦英語を身につけるのではないかしら。
視点を変えて、英語を日本語並みに話せるようになるべきかという質問に、なるべきが55パーセント、そんな必要はないが45パーセントでした。これは国際社会で生きていくには英語が必要かどうかという質問に置き換えてもよいかもしれませんね。
社内公用語を英語にするか否かはビジネス界に大きな波紋を及ぼしてるようで、議論も盛んに行われています。また、毎日新聞のインターネット版で、元NTTドコモにいて、現在、慶応大学の教授の夏野剛さんと東大教授の西垣通さんが論議しています。他のたくさんの人たちの議論と同じように、実際に国際取引の立場で仕事をしたことのある人は、ほとんど皆が皆、社内公用語を英語にする賛成派で、文化人、研究職にある人は慎重派です。
議論の内容はいたって単純で、日本のビジネス界を国際化していくには、社内でも英語を使わなければ、シンガポール、インド、中国、韓国に遅れを取り、次第に国際競争力を失くしていくというのが賛成派。反対派は、日本の良さは十分なすり合わせにあり、日本人同士が外国語を使ったのではそれができず、ただ単に英語が上手なだけの人が、上に立ち、豊かな発想を持ってはいるが、言葉が得意でない社員は取り残される。また、言葉はアイデンティティーであるから、いきなり日本語から英語に移し変えることはできないというものです。
会社で英語を使わなければならいない、報告書や決裁を英語で書かなければならないというのは、一見大層な重荷に映るかもしれません。しかし、英語で文学作品を読んだり書いたりするのとは違い、詩的な表現を探索して一つの言葉を選ぶのに推敲を重ねる必要はないのです。実践的な道具として、決まりきった表現ができればそれでよいのです。 何も日本の文化云々するような、アイデンティティーが絡んでくるような問題ではないのです。ただ実利的なことなのです。
盛田さんより英語が上手な社員がごまんといるソニー社内で、盛田さんは朴訥とした英語でトップの国際人としてソニーをリードしてきたではありませんか。
彼が生きていれば、社内英語化について、「恐れていては何も変えることができませんよ」とで言うでしょうか。
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