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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第170回:英語の国際化か? 国際化のための英語か?

更新日2010/08/05


私のように背が低く、しかもやせぽっちですと、アメリカで身体に合う服を探すのがとても大変です。大変というよりミッション・インポシブル=不可能に近いのです。ティーンエイジャー向けの洋品売り場に行けば、私のサイズの服を売っていますが、まさか、この歳のおばあさんになって10代向けにデザイン、カットされた服を着るわけにはいきません。

アメリカの服飾界は、中年以降の女性は全員、肉がたっぷり付き腰周りが充実するものと決めてかかっているのでしょう。私のように16歳から身長、体重の変わらない人は彼らの商売の対象になっていないようなのです。

数年前、ウチのダンナサンの札幌の実家近くに『ユニクロ』がオープンしました。栄養が体の隅々まで行き届きすぎたアメリカ人に比べ、痩せ型の日本人用に、細身の服がたくさんあり、私はすっかりユニクロのファンになってしまいました。日本に行くたびに、買いだめよろしく、向こう何年間分の服を買っています。しかも毎年のように日本に行きますから、私のクロゼットはユニクロ・ファッションで埋まってしまいそうです。

そのユニクロが(かなりユニクロの前置きが長くなってしまいました)社内の公用語を英語にするというのです。今度、札幌郊外のユニクロに行ったら"Can I help you?"とやられるのかと思いましたが、そうではなく、幹部の会議、文書を英語にするというのです。

確かにヨーロッパやアメリカだけでなく、シンガポール、インド、中国と市場を拡大し、また、主な工場が日本以外の国となると、貿易は英語で行われているし、製品の受注、請求書、会計報告など、英語一本にした方が便利なのかもしれません。

いままでも、貿易会社、海運会社、商社などでは、はっきりと規定しないまでも、英語圏以外の国との国際取引でも英語を使うところが多いようです。それをユニクロでは、日本の社内でも英語に切り替えるというのですから、英語恐怖症の中年以上の社員(若い会社ですからそんな年寄り社員はいないのかな?)にとっては幹部になれるか、すでに幹部役員は店員さんに落ちるのか、戦々恐々でしょう。

社内の共通語を英語にしているヨーロッパの国々、シンガポール、マレーシア、インドの会社はとても多く、もし会社を国際市場で活躍させようとするなら、英語を一種の社内共通語にするのは当たり前のことのようです。もっとも、それらの会社では、働いている人も国際的ですから、対外的なビジネス取引だけでなく、社内の人事の面でも英語を共通語とした方が得策なのでしょう。

ただ、英語で交渉をするとなると、とてもTOEICのテストで700点、800点程度の英語では無理でしょうね。開き直って言えば、たとえ900点以上、ネイティブスピーカーよりも高い点数を取ったとしても、交渉能力というのは全く別物です。

シンガポールの英語をSinglish(シングリッシュ)と呼んでいます。英語圏以外の国で最も英語が通じる、英語の分かる人が多いシンガポールですが、マレー語や広東語からの影響が強く、おや、どうやら英語らしい言葉を話しているけど、一体何語だろうと耳をそばだてなければ理解できない特殊な英語を話します。 

日本人で英語は不得意という人が70数パーセントになるそうです。シンガポール人、インド人に対しては、そのようなアンケート調査さえ成り立たないでしょう。というのは、彼らは自分が英語だと信じている言葉を、堂々とコミュニケーションの手段としてのシングリッシュに自信を持って駆使しているからです。

少しくらいの間違いや、発音など気にせずに堂々と大声で、はっきりと英語を話すと、案外通じるものですよ。それを胸を張ってやることです。

どうも、日本人が外国語を話す時、教養が邪魔をしているように思われます。高い教育を受け、国際的な知識を身に付けているのに、外国での会話は、単に語学能力の限界のため、一挙に小学生レベルに落ちることを恐れているように見受けられます。

その当時、夏目漱石ほどの高い教養を持ったイギリス人はロンドンにもそう多くはいなかったでしょうし、一般のイギリス人よりはるかに立派な英語を書ける彼ですら、会話は苦手で人前に出ることを嫌い、ロンドンの下宿先で半ば引きこもり状態に陥っていたのは有名な話しです。

日本語で育ち、教育を受けたのですから、英語会話なぞ下手で当たり前、と一種、開き直るくらいの態度の方が良いのかもしれません。国連の特別大使を務めた明石さんも英会話は大学を卒業するまで全くダメだった、それから必要に迫られて英語で話すようになったと、ネイティブとは程遠い、日本語ナマリの強い英語で言っていました。彼の発音がクイーンズ・イングリッシュ、スタンダード・イングリッシュでないと笑う人は、英語圏の人、国際人には誰もいません。

外国語での会話には、ある程度の軽率さとズウズウしさが必要だと……と言っていたのは、開高健ではなかったかしら。

大賛成です。言葉はコミニケーションの一つの手段に過ぎないということを忘れずに!

 

 

第171回:"逃げろ コルトン 逃げろ"

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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