第176回:公務員と税金泥棒
もう10年も前のことになりますが、ハリウッドのアカデミー映画賞、通称オスカーの授賞式で司会役のビリー・クリスタルが、「ベルの町はバーミューダー・トライアングルのように、すべてが消えてなくなってしまう」と言い会場を沸かせたことがあります。 というのは、受賞者に与えられる金(金色)のオスカー銅像が55体ベルの町で盗まれ、その1ヵ月前に受賞者を決めるアカデミー会員の投票(郵送で行われる)4,000通が消え、どういうわけかベルの町の中央郵便局で見つかった事件があったからです。
ベル市はロスアンジェルスの南東15-6キロにある小さな市です。市政を敷いている中で下から数えて何番目という、人口も3万8,000人(2000年の国勢調査では36,664人でした)、広さ(狭まさ)6.5キロ平米と小さく、ロスアンジェルスに呑み込まれてしまいそうな「市」で、アメリカでヒスパニックと呼ばれているメキシコ系の人が多く住でいます。
このちっぽけな町が全米一、二位のランキングを争うギネスブックものの記録に挑戦してるのです。まず、一位が確実だろうと言われているのが、市の職員、公務員のトップの人たちの給料です。選挙で選ばれたのではない(市長さんではありません)、市の助役に当たる公務員の給料が年、8,000万円相当なのです。これはオバマ大統領のほぼ2倍です。しかも、終身年金として毎年6,000万円相当を貰えるというのです。
警察の所長さんは4,500万円の年収で、これもFBIやCIA長官よりもズーッと多い金額です。また、ベル市の事務次官でさえ年に3,800万円相当を貰っていますが、これはパートタイムの仕事で、事務次官のアンジェラ・スパシアさんは、他のいくつのかの町と掛け持ちで、それぞれの町から別個に給料を貰っていたのです。
こんな小さな町ですから、市議会議員といってもパートもパート、時間にすると8分の1か10分の1くらいの会議に参列するだけで、年に1,000万円相当の手当てを貰っていたのです。同じ程度の大きさの町や市では議員の手当ては40~50万円くらいです。
もうひとつ、全米一か二位を争っているのは固定資産税の高さです。それだけの高給を見境なくフトコロに入れているのですから、市の財源、固定資産税が高くなるのは当然ともいえます。今年の7月にこのベル市のニュースを知ったとき、私はきっとベル市というのは、大金持ちが住むファッショナブルなロスの一角だろうと思っていました。ところが、実際は全く逆で、一人当たりの平均年収が248万円相当しかなく、これは全米平均328万円相当よりかなり低く、しかも生活費の高いロスの郊外ですから、とても貧しい人々、ブルーカラーの労働者が多く住んでいる町なのです。そんな住人の住む小さな家から全米一、二位の固定資産税を取っているのです。
ベル市の職員が違法なまでに多額の給料を取っている(盗っていると書いた方が当たっているかしら)ことを調べ暴露したのは、"ロスアンジェルス・タイムズ"の二人の記者、ジェフ・ゴットリーブとルーベン・ヴィヴェスです。その結果、ロスアンジェルス郡の警察だけでなく、FBIまで乗り出す事件に発展していきました。
ベル市民の集会も開かれましたが、参加者の大半はメキシコ系のアメリカ人で、激情に任せて、市のエライサンに向かって「フェーラ! フェーラ!」(スペイン語で「出て行け」)と叫ぶばかりで、会場に定員より多くの人が入り込み、イザというときに危険であるとして消防署が解散を命じ、集会を解散してしまったのです。
私は密かに、白人がインディアンを暴力で追い払ったように、今度はメキシコ系アメリカ人が既得権にしがみついている主に白人の市の役員を追い出したらよいのにと期待していましたが、現代社会ではそんなことは起こりませんでした。
どうして、こんなちっぽけな町の役人がここまで増長したのでしょうか。アメリカに残る強い地方自治の気風が、外からの批判、チェックを受け入れない土壌を作っているのは確かです。それに加えて、政治的におとなしいメキシコ系の人たちはまだアメリカの政治の場で強く自己主張をし、市政を監視する意識が低かったのかもしれません。市当局も住民をただおとなしく税金を払ってくれる、後から来た移民集団と見ていたのかもしれません。
以前書きましたが、カルフォルニアで起こったことはすぐに全米に広がる傾向があります。すべての震源地はカルフォルニアだというわけです。ベル市のような事態が我が町に起きないよう、しっかりと見張っている必要がありそうです。
第177回:テーブルマナーと歩き食べの習慣
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