第157回:山の春とスカンク
私たち住んでいる山裾は標高2,100メートルあり、なかなか春がやってきません。"三寒四温"ではなく気温差の激しい山では"三凍四暑"です。やっと雪が溶け始め、日差しに暖かさが増してきたなと思ったら、突然吹雪になったりします。
一年に二度、春と秋に、動物たちがここを通って、平原に降りたり、山奥へ帰っていったりします。ちょうどその通路に当たっているのでしょうか、春と秋にとてもたくさんの動物たちを見ることができます。ここが居心地が良いのでしょう、ただ、放し飼いの犬やハンターがいないせいでしょうか、鹿や野生の七面鳥、野うさぎ、コヨーテなどが長居しています。
毎朝、窓から鹿を見るのが楽しい習慣になってきました。逆に鹿の方が私たちを窓から覗いているといってもよいでしょう。鹿はとても臆病な動物ですが、急な動きをせずに緩やかにドアからガレージまで歩いても、コンポスト用の生ごみを捨てに出ても逃げません。
仙人を自認するウチのダンナさん、何でも自分の気配を殺して鹿に近寄り、鹿のお尻をピンと叩けるようになるのを、修行の最終目的としているようで、話しかけながら(日本語ですよ)ゆっくりと近づいたり、木のようにジッとたたずんで、鹿が寄ってくるのを待ったり、なんとか接近しようと修行を積んでいますが、もちろんダンナさんに尻を叩かれるような、そんな間抜け鹿はまだいません。第一、禿げ白髪を仲間と思い込む鹿がいるわけないのですが。それでも、「今日は3メートルまで近づいた」と喜んで私に報告したりしているのです。私は逆に、あまり人間に馴れるとハンティングシーズン開幕の時、一番先に撃たれるから、そんなことは止めてと言っているのですが。
もともと、動物たちの領域に私たちが入り込んできたのですから、彼らに先住権があることは知っています。が、どうにも仲良く近くで暮らせない動物もいます。
スカンクです。日本にスカンクがいないので、スカンクがいかに強烈な臭いを撒き散らすか想像するのは難しいでしょう。日本で"鼻が曲がるほど臭い"と言いますが、スカンクの臭いは"鼻が潰れそう"なのです。よく高速道路で車に引かれたスカンクを見ますが、はるか200-300メートル前から、「アッ、スカンクが車にはねられている」と分かるほどです。
スカンクが尻を持ち上げ、逆立ちするように敵に向かって噴射する水鉄砲、臭気弾を浴びると、どんな動物もタジタジとなり、戦意をなくすほど凄い臭いなのです。衣類に付いたらどんな化学薬品も、この臭いを消すことができません。眼を開けていることができないほど臭く、呼吸が困難になるほどの臭いなのです。
一週間ほど前、夜中の2時頃、忌まわしいスカンクの臭いで目が覚めました。もちろんこんな季節ですから、ドアも窓もすべて閉め切っています。それにもかかわらず、強烈な臭いが家の中まで侵入してきたのです。
翌朝、外に出てみると、あたり一面、ここはスカンクの王国ですよとばかり、異様な臭気に覆われていました。家から5メートルほど離れた物置の外に穴があり、そこから物置の縁の下に侵入しているらしいのです。なんでも春先は赤ちゃんを産む季節なので、敵が侵入できない、温度の安定した縁の下などが格好の育児場になると、インターネットにありました。
それから、厳しいスカンクとの戦いが始まりました。スカンクはナフタリンを嫌うとインターネットに書いてあったので、大量のナフタリンを網の袋に入れ、穴に押し込みましたが、すぐ脇にまた別の通路を掘り、ナフタリン効果はありませんでした。
インターネットでは効果絶大というスカンクの天敵、狐の"おしっこ"まで高い値段で売っているのです。スカンクに悩まされている人がいかに多いか、伺い知ることができるというものです。おしっこ採集のために狐牧場を開いたらお金持ちになるのではないかしら。
"狐のおしっこ"のことを知ったウチのダンナさん、自分のおしっこを盛んに撒いたようですが、もちろん全く効果ありませんでした。そこで大きなコンクリートブロックで穴を塞ぎましたが、ブロックの下をくぐって新通路を掘り、このアイディアも失敗でした。
私としては、家の中にすでに禿げ白髪のスカンクを一匹飼っているようなものですから、外にもう一匹、本物のスカンクなど、全く歓迎したくありません。
これからもスカンクとの大きな戦いが続きそうな今年の春です。
第158回:マグロの怪
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