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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
第158回:マグロの怪
更新日2010/05/13


日本人がかたずを呑んで見守っていた…と想像していますけど、クロマグロの輸出入禁止法案が否決されたのは周知の通りです。

大方の予想では、禁輸案が通り、大西洋、地中海産のマグロはもう口に入らなくなり、日本でお刺身、お寿司の値段が天文学的な値段になると思われていましたが、意外や意外、ワシントン条約締約国会議という長ったらしい会議での投票結果を見ると、68票対20票の大差で、クロマグロ禁輸案が否決されました。魚業大国のアイスランドやノルウエー以外のヨーロッパの国々は輸出入禁止派で、アジア、アフリカ、南米の国々が賛成派に回ったと見られています。

これほど予想とかけ離れた結果の票決も珍しいです。この決裁に一緒に行なわれたサメ、鱶鰭スープに使われる中国人の大好物、サメの輸出入禁止法案も抱き合わせだったので、アジア、アフリカに強力な影響力をもつ中国が動いたとも言われています。そういえば、最近、築地で最高のマグロを一番高い値段で競り落とすのは中国人だそうですが…。

本来ならなかなか口に入らないはずのトロが回転寿司で安く食べることができるのは、"蓄養"(こんな言葉あるんですね。畜産と養殖を掛け合わせた造語かしら)のおかげだそうです。若いマグロを囲い網で取り、地中海にある大きな生簀に入れ、栄養満点のエサを大量に与え、運動不足でアメリカの肥満児並に太らせ、本来ならマグロ本体の10パーセントしか取れないトロを、30パーセントまでトロになるように育てて出荷してます。

このような、神戸の松阪牛の霜降り肉を思わせる"蓄養"の技術は、もちろん日本のワザです。日本の業者が現地に赴き、指導よろしく、トロだらけのマグロを育てています。こんなことを知ると、なんだか超デブを食べているようで、食欲が削がれてしまいます。このやり方で、一番需要の多い時に生簀からすくい上げ(実際に掬い上げているのかどうか知りませんが)、安定した、かつ現地の人にとっても儲けの多い供給が可能になったそうです。

誰でも見ることができる大西洋マグロ類保存国際会議の資料によれば、1974年に30万トン採れていたマグロが、一昨年にはなんと8万トンに減っています。この科学的データーは日本の生態学者も認めるように、信頼度が高いそうです。

なんとしても避けなければいけないのはマグロ、特にクロマグロの絶滅です。自分勝手な言い分だと分っているのですが、一定の期間でも一度、マグロ輸出入だけでなく、漁そのものを禁止にして、数年後に生態学的調査をし、絶滅の危機を脱した、一定量なら漁をしても安全だと分かった時点で再開してはどうなのかしら。

漁業に関し、いつも悪役ばかり演じている日本が率先して、そのような態度を取れば、世界中の信用を集めるでしょうし、発言権も増すでしょう。マグロ漁再開だけでなく、捕鯨のイニシアティブもとれるでしょう。

これはタダ単に私が長く、せめて私が生きている間だけでも、細々と年に3、4回、中トロを食べ続けたい一心から出た、胃袋先行型の案ですが…。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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