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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
第165回:スカーフ禁止令とヒゲ禁止令
更新日2010/07/01


フランスの議会でモスリム(イスラム教徒)の女性が被るスカーフ禁止令が可決しそうです。そんなこと禁止できるのと思い、ニュースをたどってみると、パスポート、IDカード、運転免許証などの写真で顔全体と耳を出せというのが基本で、出入国の時の審査でも顔全体を見せ、面通ししなければならないというのが発端のようです。

別に、街の中を歩く時にスカーフを禁止するというのではないようです。ですが、制服着用を決めている学校では服装の規準があり、スカーフはその規準違反だと、認めない学校があり、問題は広がっていきました。

とかく、宗教問題が絡むと問題は果てしなく広がってしまう傾向があります。それだけフランスには、モスリムの人がたくさん住んでいるのでしょう。

日本人の制服好きは前に書きましたが、服装だけでなくあるスポーツ団体では茶髪、長髪禁止のところは珍しくありません。今度、群馬県伊勢崎市で市役所に勤める人へのヒゲ禁止令が出されました。日本では、ヒゲはまだ市民権を得ていないのでしょうね。

昔からヒゲは英雄や強い者の象徴でした。それは日本でも西欧でも変わりません。軍人やお巡りさん、やたらに威張りたがる役人は、ヒゲを蓄えていたのは世の東西を問わず一緒でしょう。

明治維新のとき、文明開化の一環としてチョンマゲを禁止したことがありました。それほど、徹底した法律ではなかったようで、マゲを結ったまま明治半ばまで生きた元お侍や漢学の先生が珍しくなかったそうです。

このヒゲ禁止令、本来ヒゲの濃い人たちが住んでいる国、たとえばスペイン、インド、ポルトガルなどでは実行不可能と言うべきか、誰もマジメに相手にしてくれないでしょう。自然に生えてくるものを剃り落とさなければ違法だなんて、そんな馬鹿な法律があってたまるか、というわけです。おまけに、それらの国々では女性も、可哀想なことですが、わっさりとヒゲが生えている……のにお目にかかるのは珍しくありません。薄いちょび髭のうちのダンナさんよりズーッと立派なヒゲの女性がたくさんいます。

まずはカタチから、外見、服装から締め付けていこう、というのは為政者の無能の現われです。伊勢崎市のお役人さんは、よほど酷い勤務態度、市民への対応をしていたのかしらと、疑いたくもなります。ヒゲを落としたからといって、勤務態度が向上するとでも為政者、上に立つ者が思っていたとしたら、とんでもない間違いです。

チョンマゲや弁髪を禁止していた時とは時代が違うのです。問題は、そのような安直な禁止令でモラルを高めようとする為政者の態度にあるように思えます。

ヒゲ禁止はハゲ禁止と同じくらいこっけいなことなのです。生えてくるものと退化して抜けていくもの、両方とも自然のことなのですから。

 

 

第166回:アメリカでの大流行が日本に届かない!?

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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