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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと
第193回:流行り歌に寄せてNo.10 「東京の屋根の下」~昭和23年(1948年)

更新日2011/08/04


前回から「憧れ」ずくめで恐縮だが、私は地方に住んでいたときは、東京に対して強い憧れを抱いていた。

中学の頃、そのきっかけとなったのは日活映画である。日活映画といっても、裕次郎、旭などの硬派のアクション物の方ではなく、軟派な青春路線の方なのだ。芦川いづみ、浅丘ルリ子、吉永小百合、和泉雅子の四姉妹役による『若草物語』などの舞台になった東京の街並みに、強く惹かれた。

高校在学中は、いわゆるフォークソングで歌われる東京の景色の中に、一日も早く自分の身を置きたいと願ったものだった。神田川のそばのアパートで、長い髪の似合う女の子と一緒に住んで……などと妄想をしたものだ。

そんな私も、18歳の半ばに上京して、来月でまる37年。人生のちょうど3分の2を「憧れ」の東京に住み続けていることになる。

「東京の屋根の下」 佐伯孝夫:作詞 服部良一:作曲 灰田勝彦:唄 
1.
東京の 屋根の下に住む 若い僕等は 幸福者

日比谷は 恋のプロムナード 上野は 花のアベック

なんにもなくても よい 口笛吹いて ゆこうよ

希望の町 憧れの都 二人の夢の東京

2.
東京の 屋根の下に住む 若い僕等は 幸福者

銀座は 宵のセレナーデ 新宿は 夜のタンゴ

なんにもなくても よい 青い月の 光に

ギターを弾き 甘い恋の唄 二人の夢の東京

3.
東京の 屋根の下に住む 若い僕等は 幸福者

浅草 夢のパラダイス 映画にレビューにブギウギ

なつかし 江戸の名残り 神田 日本橋

キャピタル東京 世界の憧れ たのしい夢の東京


私の上京から、さらに遡ること四半世紀前に流行った名曲である。この歌も数回前このコラムでご紹介した『胸の振子』とともに、映画『トキワ荘の青春』の冒頭部分に、小さな音量ながら、効果的な挿入歌として使われていた。

佐伯孝夫の詞のテンポに、服部良一の曲のテンポが重なって、弾むような相乗効果を出し、それを灰田勝彦が実に気持ちよさそうに、軽快に歌うのである。聴く側もワクワクと楽しい心持ちになる。

むろん、当時は戦後の復興が始まったばかりで、「キャピタル東京、世界の憧れ」と言えるほどの態(てい)にはなっていなかったと思うが、そうなっていこうという気概を、後押しする力を持った曲である。

ヒットしてから60数年、使われている横文字にも時代を感じさせるが(但し、プロムナード、アベックはフランス語、セレナーデはドイツ語、タンゴはスペイン語で、1番、2番ともに英語の表現がないのは興味深い)、最も感じさせられたのは街の名前のリストである。

若者たちが集まり、人気のある場所としてこの歌の中であげられているいくつかの街。2番の銀座、新宿は現在でも揺るぎない人気を誇るが、あとの日比谷、上野、浅草、(そして、歴史ある街として歌われており、人気スポットという扱いではないものの)神田、日本橋については、現在では若者にはあまり縁のない街になっている。

変わって、現在は渋谷、原宿、六本木、吉祥寺、下北沢あたりになるのだろうか。いつから、どんな理由でそうなって行ったのか。

位置的に言えば、以前は東京の真ん中、及び少し東側に人気があったものが、最近では西南側に移行しているようだが、その根拠については、戦後の東京の歴史をいろいろと調べてみなくては解らない。

ところで、今の東京在住の若い人たちには、「東京の屋根の下に住む、若い僕等は幸福者」という意識はあるのだろうか?(そう言えば、この幸福者〈しあわせもの〉という言い方さえ、昭和とともに消えていった言葉かも知れない)。

ある程度年齢を重ねてしまった私の目から見れば、今の若い人たちは非常に真面目で堅実、経済観念もしっかりしているように見える。けれども、その分何か小さく纏まっていて、いくぶん醒めた感じがするのだ。

とは言っても、「しらけ世代」と呼ばれ、「無気力・無感動・無関心」の三無主義世代とも言われてきた私たちにも、間違いなく熱い思いはあったはずだ。

今の人たちは、「若さ」を敢えて露骨に口にするのは憚りながらも、彼らなりに、静かにその時季を享受し、幸せを感じているのだろうか。ワクワク弾むようなこの名曲を聴きながら、いつもボンヤリとそんなことを考えてしまう。

-…つづく

 

 

第194回:流行り歌に寄せてNo.11 「青い山脈」~昭和24年(1949年)

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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