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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと
第189回:流行り歌に寄せて No.6 「夜霧のブルース」~昭和22年(1947年)

更新日2011/06/02


私が、いわゆる昭和歌謡というものを好んで聴くようになったきっかけは、店にいらっしゃるお客さんが持ってきてくださった、ちあきなおみの『港が見える丘』というCDと出会ったことだった。

現在は、アルバムタイトルを『星影の小径』と変えただけで、内容は全く同じCDになっているが、私にとっての至極の一枚である。おそらくこのコラムにも、このアルバムの収録曲が、またいくつか登場するとは思うが、その最後に入っている曲が「夜霧のブルース」である。

私は、ちあきなおみの歌う、この歌を始めて聴いて思ったのは「ああ、自分も背中に彫り物を入れてみたいなあ」という感覚だった。生まれて初めて、そんなやくざな衝動に駆られたのである。

『夜霧のブルース』 島田磬也:作詞 大久保徳二郎:作曲 ディック・ミネ:唄 

1.
青い夜霧に 灯影が紅い

どうせおいらは ひとり者

夢の四馬路(スマロ)か 虹口(ホンキュ)の街か

ああ 波の音にも 血が騒ぐ

2.
可愛いあの娘が 夜霧の中へ

投げた涙の リラの花

何も言わぬが 笑ってみせる

ああ これが男と 言うものさ

3.
花のホールで 踊っちゃいても

春を持たない エトランゼ

男同士の 相合傘で

ああ 嵐呼ぶよな 夜が更ける


※四馬路(スマロ)は、以前の上海の黄浦江にある波止場(外灘)に近い歓楽街。虹口(ホンキュ)は共同租界の中の日本在留民が多く住んでいた街。その二つの街は外白渡橋(ガーデンブリッジ)で結ばれていた。

魔都と呼ばれていた、日本との戦争が終わるまでの上海の雰囲気がスーッと伝わってくるような歌で、もともとは、松竹映画『地獄の顔』の劇中歌として作られたものだそうだ。

(因みに、この映画の劇中歌はかなり贅沢なもので、この歌と同じ作詞、作曲者による、ディック・ミネと藤原千多歌のデュエット『長崎エレヂー』。菊田一夫:作詞、古関裕而:作曲による二曲、渡邊はま子:唄の『雨のオランダ坂』。そして伊藤久男:唄の『夜更けの街』という錚々たるライン・アップである)

映画は、往年の大スター水島道太郎演じる西脇順三が、上海で嘗て悪事を働いていたところを恩師に救われてから更正し、長崎の育児院で子どもたちの世話をして生きていこうとするが、旧悪からの誘いを受け・・・・というストーリー。

私は残念なことにまだこの映画を見る機会に恵まれていない。けれども菊田一夫の原作で、水島道太郎が主演、敵役が佐伯秀男、女優が木暮実千代、月丘夢路という私の大好きな役者さんの競演の映画で、バックには『夜霧のブルース』が流れるとあれば、今すぐにでも観たいものである。

当時の上海は、世界から集まった兵士とギャングが暗躍し、麻薬と暴力が人々を縛っていた街だという。実際にその街で住むことは、男としては度胸と侠気がなければなかなか難しいことだったのだろう。

この歌の各コーラスの最後、「ああ」の次に来る詞が、その度胸と侠気を喚起させるものなのだ。そして、それはピーンと張り詰めたような緊張感を漂わせている。

「波の音にも血が騒ぐ」

「これが男というものさ」

「嵐呼ぶような夜が更ける」

この歌を心虚しくなる夜に、一人静かに聴いていただきたい。彫り物をしたくなる気持ち、男だったら分かってもらえる気がするのだが・・・。

因みに、この曲をカヴァーしているのは、件のちあきなおみの他には、石原裕次郎、渡哲也、フランク永井、宇崎竜童。オリジナルを歌うディック・ミネをはじめ、全員がサングラスの似合う男たちである。

-…つづく

 

 

第190回:流行り歌に寄せて No.7 「東京ブギウギ」~昭和22年(1947年)

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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