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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと
第177回:若き二人のワラビー
更新日2010/11/18


先月の30日、香港スタジアムで行なわれたオーストラリア・ワラビーズ(以下:豪州)対ニュージーランド・オールブラックス(以下:NZ)の定期戦、ブレディスローカップ最終戦。直近のトライ・ネーションズ第3試合で22-23と肉薄しながらも、ついに対NZ戦10連敗を喫してしまった豪州。何としても負けられないゲームだった。

最近では、前半はリードをしているものの、後半はジリジリと追い上げられ、最終的には力負けするというパターンが多かった。この日も先制点を取り前半30分前までは12-0と幸先の良いスタート。しかし、その後立て続けに点を取られ、前半終了時には12-17とリードを許す。

後半の先制点が欲しい豪州だが、反対にNZにトライ&ゴールを奪われ、12-24。これでゲームの方向が決まり、もしかするとNZに大差で勝たれてしまうのではないかと予想されたが、この日の豪州は違った。

リードされた8分後にはトライ&ゴールを返し19-24。そして終了間際に相手陣深く入り込み、ゴール前に迫ってボールを繋ぎに繋いでいく。あと1プレーで試合終了のホーンが鳴り響いた後も、ペナルティーを得てていねいに攻撃を繰り返す。

そして、ついに相手のディフェンスをかいくぐりトライ。24-24の同点に追いつき、その後のゴールキックを確実に決め、26-24。その瞬間にノーサイドの笛が吹かれた。劇的な幕切れでの豪州の勝利だったのだ。

この勝利に、充分すぎる貢献をした二人の若者がいた。前回のこの項でも少し触れたが、今回はこの二人にスポットライトを当てたいと思う。

一人はデビット・ポーコック(David Pocock)、ポジションはフランカー(以下:FL)。181cm、101kg、1988年4月23日、アフリカ・ジンバブエ生まれの22歳。(ちなみに白人)テスト・マッチ・デビューは2008年の対NZ戦で現在28キャップ。愛称は「バムバム」。

22歳にして、すでに世界のトップクラスのオープン・サイドFLである。ボールを持たせたときの突破力も抜群でありながら、この人の特長がもっとも生かされるのは、密集戦の中にある。

相手がボールを抱えて突進してきて、ポーコックがタックルに入り、そのうちに両チームのフォワードが集まり、密集でのボール争奪戦(ブレイク・ダウン)が始まる。この場面でポーコックは相手ボール・キャリアーにきっちり身体を寄せ、「ノット・リリース・ザ・ボール」の反則を犯させるケースが圧倒的に多い。

さもなければ、相手ボールをもぎ取っている。これほど頼りになるFLはいない。局面により、世界一のオープン・サイドFLであるNZのキャプテン、リチャード・マコウとトイメンになることも多いが、決して引けを取らない。いや、余談だが、あの利かん気の強い面構え、喧嘩をやらせたらポーコックの方が上かも知れない(こんなことを書くとオール・ブラックス・ファンの逆鱗に触れるが)。

前回のW杯まで大活躍し、豪州ラグビー史上№1と言われた、フィル・ウォー、ジョージ・スミスのFLコンビがいなくなり、落胆にくれていた豪州ファンにとって、ポーコックとキャプテン、エルソムとのFLコンビ誕生は、一気に世の中が明るくなるような朗報である。

もう一人はジェームズ・オコナー(James O'Connor)、ポジションはバックスのほとんどすべてをこなすユティリティー・プレーヤー。180cm、88kg、1990年7月5日生まれの弱冠20歳になったばかり。

お父さんがNZ出身、お母さんが南アフリカ出身で、本人が豪州代表、「一人トライ・ネーションズ」と変な呼び方をされることもある。テスト・マッチ・デビューは2008年の対イタリア戦で現在26キャップ。愛称は「ラビット」。

愛称の通り、まだまだ少年らしい表情を残した可愛い顔と、そのヘラクレスのような体躯、激しいプレーとのギャップが実にスリリングな選手である。

前述の試合、なかなかゴールキックが決まらず勝機を掴めない原因になっていたマット・ギタウに代わって17-24となった後のゴールキックからキッカーを務め、慎重にこれを決める。

終了間際の連続攻撃の末トライを奪ったのも、「少年」オコナーである。そして、同点に追いついて会場全体が沸き返り、このキックで逆転という異様なほどの緊張感に包まれたその中で、彼は冷静にボールをプレースし、静かに呼吸を整えた後でゆっくりとボールを蹴り上げた。

決して簡単な角度からではなかったが、蹴り上げられた瞬間に間違いなく入ると確信できるようなキック。ボールはきれいな軌道を描き、ゴールポストの真ん中を通過していった。

もちろんこれはハイライトではあるが、オコナーは試合の中のあらゆる局面で、実に鮮やかでワクワクするような動きを見せるのだ。こちらも、間違いなく豪州ファンが長く待ち望んでいた選手なのである。

さてこの若者二人、来年のW杯までにどこまで成長し、そして本番でどんなプレーを見せてくれるか。もう、私はむちゃくちゃ楽しみにしている。

-…つづく

 

 

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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