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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと
第172回:走れ! 愛馬"リズモア"(前)
更新日2010/08/26


最初に、私の店の名前と同じその馬の存在を知ったのは、店のホーム・ページに投稿してくださった、常連のお客さんの次の書き込みからだった。

「君は"リズモア"という名の馬を知っているか」。
ぼんやりとインターネットを見ていたら驚いた。"リズモア"という名の競走馬がいるのだ。
競馬について門外漢なのでよく知らないのだが、まだ2歳の新馬だそうである。
名前の由来は、「アイルランドで最も美しい街にも選ばれたことがある町。その名の通り、美しい走りを見せて欲しいとの願いを込めて。母父が愛ダービーを勝っていること、また名牝である祖母が愛国産であることより連想」とある。これは、デビュー戦の馬券を買わなくてはなりませんねK馬主。
(注:愛=アイルランド)

これを書いてくださったのは、昨年の10月中旬のこと。そのお客さんは、私に黙って秘かに他のお客さんに声をかけ、みんなで少しずつ出資してこの馬の一口馬主の権利を買い、昨年11月末、店の10周年に私にプレゼントしてくださるつもりだったらしい。K(私の名前の頭文字)馬主と最後にあるのは、それを見越してのことのようだ。

残念なことに、一口馬主応募の期限が過ぎてしまったために、それは叶わなかった。けれども、大変にありがたい話しで、今でも恐縮してしまうのである。

私も競馬というものを知らない。けれども、出自がスコットランドとアイルランドの違いがあるとは言え、店名と同じ馬が競走馬として走ると知ったからには、やはり肩入れして注目してしまうものだ。

私はネットを通じてこの"リズモア"についていろいろと調べてみた。2007年3月24日生まれ、現在3歳5ヵ月の牝馬(メス馬)。日本中央競馬会(JRA)・北海道は美浦トレーニングセンター所属の小島茂之厩舎にいる馬である。

馬主はキャロットファームというクラブ法人、生産者はノーザンファームという生産牧場とあるが、競馬を知らない私にはあまりピンと来ない。

お父さんはアグネスデジタル、お母さんはタイキナタリー。いずれも競馬ファンには馴染みのある名前らしい。前掲の投稿にあるように母方の祖父がアイルランドのダービーで勝利したCommander in Chiefという名馬であり、父方の祖母はChancey Squawというアイルランド産の名馬であったようだ。

"リズモア"の画像も見てみたが、少し目が垂れていてちょっと頼りない感じがした。口の悪い店のお客さんに、「Kさんに似ていますよね」と言われたが、そんなに悪い気はしないものである。自分でだんだんと入れ込んでいくのが分かる。

実際の競走馬としての"リズモア"も、風貌通りの少し神経質で気の弱い馬らしい。走った後、業界用語で「スクむ」と呼ばれる筋肉が硬直する症状もときどき見られ、調教には随分と気を遣わなくてはならないらしい。

ただ、素質はたいへん良いものを持っているとのことで、厩舎ではていねいに、ていねいに育てているとのことだ。

さて、その彼女のデビュー戦は今年の7月3日(土)阪神競馬場の第2レース、3歳未勝利戦であった。残念ながら、私は事前に情報を得られなかったので、投稿にある、「デビュー戦の馬券を買わなくてはなりませんね」とのご期待に添うことはできなかった。

天気は残念なことに雨の不良馬場。距離はダートコース1,800メートルで16頭立てのレース。「愛馬」"リズモア"は11番人気。騎手は豪州のグレッグ・ウィリアムズ氏が騎乗した。

"リズモア"はよく走ったらしい。レース前にはいろいろな不安があり、ゲートを出た後も騎手が、「何をして良いかわからない感じだった」のが、レースが進むにつれ、「指示にも素直に反応し、何も問題を感じなかった」と好感触を掴むようになる。

結果的には、馬がコース取りを誤って失格という無念な結果に終わってしまった。謙虚な騎手は、騎乗後、「"リズモア"が動いて失格になったのではなく、私が誘導したことで失格になったのだから」と語ったそうだ。

ところが、小島茂之調教師はじめ厩舎スタッフは、馬主はじめ各関係方面に「失格」という形で迷惑をかけてしまったことを除けば、レース内容には大変に満足だったようである。

小島調教師のブログの中で、「こちらが求めていた以上というか、よくぞここまで力を出す努力をしてくれたというくらいの騎乗だった。久しぶりに感動したというか、"リズモア"の頑張りもそうだし、ジョッキーのひたむきさもそうだし・・・」と語っている。

そして最後に、「いい馬ですよ!」と褒める言葉を残したウィリアムズ騎手に、心からの感謝の気持ちを表した後、小島調教師のブログは次の言葉で締められていた。「リズモアも偉かった・・・」。

私は心底、驚いてしまった。調教師の人々はこういう姿勢で馬と向き合っているのだ。真っ直ぐに胸を打たれる思いだった。その背景も含め、愛馬"リズモア"をずっと声援していこうと心に決める。

次のレースは2週間後の7月17日(土)、場所を新潟競馬場に移しての「3歳未勝利戦」であった。

-…つづく

 

 

第173回:走れ! 愛馬"リズモア"(後)

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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