■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

金井 和宏
(かない・かずひろ)

1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice


第1回:I'm a “Barman”~
第50回:遠くへ行きたい
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第51回:お国言葉について ~
第100回:フラワー・オブ・スコットランドを聴いたことがありますか
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第101回:小田実さんを偲ぶ~
第150回:私の蘇格蘭紀行(11)
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第151回:私の蘇格蘭紀行(12)


■更新予定日:隔週木曜日

第152回:私の蘇格蘭紀行(13)

更新日2009/10/08


5ヵ国対抗ラグビー
4月10日(土) 今日は、我がスコットランド・ラグビーの5ヵ国対抗の最終戦、対フランスとの試合である。もし勝つことができれば、明日のウエールズ対イングランド戦の結果如何によって、9年ぶりの優勝の可能性もあるのだ。

そして、来年からはイタリアも加わって6ヵ国対抗になるので、今年は"5 Nations Rugby"の最後の年ということになる。朝目覚めてから、ラグビーのことばかり考えており、自分でも信じられないほど気合いが入っていた。

「i」で、昨日初老の紳士から教わったQuinnn'Barrの場所を確認する。まだ30歳前と思われる好青年が電話帳をめくりながら丹念に調べ、詳しく教えてくれた。その場所近くに行ってからも、途中裏道に回ってしまったが、そばのカフェの気さくな女性に再び場所を教えてもらってたどり着いた。

試合まではまだ1時間半ほどあったので、近くの浜辺を散策することにした。日本の海の歌をいくつか口笛で吹きながらゆっくりと歩く。日が出ているときはとても暖かで気持ちがよかった。

浜辺に面したAmusement Centreの公衆電話で、久し振りに息子と話した。「心配要らない、ゆっくり楽しんできて」との言葉に、少し胸が熱くなる。

港で船を見ながらしばらくボーッとする。アバディーンが海底油田の街であると高校あたりで習ったことをおぼろげながら思い出した。

午後2時少し前にQuinnn'Barrに入った。件の紳士は奥のカウンターの方にいて、私を認めると大きく杖を差し上げて笑顔で迎え入れてくれた。そして、この店のご主人に、「彼がさっき話していた、我がスコットランド・ラグビー贔屓の日本の男だ。よろしく頼むよ」というようなことを伝えてくれた。

広い店内だが、大スクリーンに映し出されるゲームを熱心に待っているお客さんは10人程度。パブが揺れるほどの熱狂振りを期待していた私には、寂しい人数である。それでもスコットランドのNational Anthem "Flower of Scotland"が演奏され始めると、店内に歓声が沸いた。

ところが、演奏途中で何人かのお客さんからブーイングが起こる。件の紳士に聞いてみると、「敵地スタッド・デ・フランスでのゲームだから、あいつら我が軍の士気を落とすためにわざとモタモタした演奏をしていやがる。きたない奴らだ」というようなことを、画面を睨みながら答えてくれた。

やはり敵地でのゲームで勝利するのは困難なのかと緊張して観ていたら、何と我がスコットランドがトライに次ぐトライの大暴れなのである。アラン・テイトとマーティン・レスリーが2トライずつ、そしてタウンゼントも1トライ。ローガンが、その内コンバージョンを4つ決め、さらに1PGを蹴り込んだ。

もう、私などはかなりの盛り上がりで、件の紳士と何回も握手をしながら画面に釘付けの状態だった。ところが、ゲームが終盤を迎えた頃、何人かが店に入ってきた。一様に労働者とはっきりわかる格好をしていて、中には少しやさぐれた感じの人もいる。いつの間にかその人たちの人数は20人を越えていた。

何なのだろう、この人たちは。ひとつだけ分っていたのは、彼らはまったくと言っていいほどラグビーに興味を持っていないことだった。彼らが席に着ききった頃、大スクリーンの画面が変わり、競馬中継になった。

心外な顔をしていると、店のご主人が私の脇にすっと寄ってきて、「これはGrand Nationalという重賞レースなのです。レースが終わったらすぐにラグビーに切り替えるので、少しだけ辛抱してください」と話をしてくれた。私は、この店の向かいにブックメーカー屋があることを思い出した。

レース後、しばらく店内にどよめきが起こったが、その大勢の人々は一瞬のうちに店の外に出て行ってしまった。スクリーンは再びラグビーに切り替えられた。幸いなことに、レース中にゲームの得点の動きはなかった。

しばらくの攻防の末、我がスコットランドは敵地でフランスを倒したのだ。最終スコアは、36対22、堂々の勝利である。スタジアムでの極少数派のスコットランド・ファンが紺地に白斜め十字の大きな旗を振っているのが映し出された。

とにかく、我が応援チームは5ヵ国対抗戦最後のゲームに勝利した。やるだけのことはやった。「人事を尽くして天命を待つ」の思いで、明日のウエールズ対イングランドの結果を待つことにしよう。

私は紳士とガッチリと勝利の握手をした。「やったぜ!!」。いつのまにか私は3パイントのビールを空にしていたのだった。

-…つづく

 

第153回:私の蘇格蘭紀行(14)

 

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