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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと
第178回:常用漢字四世が誕生
更新日2010/12/03


いばら城、とち木、さい玉、山なし、岐ふ、大さか、な良、おか山、福おか、愛ひめ、くま本、か児島の各府県にお住まいの方々、ようやく「常に用いられる漢字」の仲間入りを果たせましたね・・・。「その他」も、「そのタ」だけではなく、「そのほか」とも読めるようになった!

11月30日、文部科学省文化審議会は、今年6月7日に答申した「改定常用漢字表」(2136字/4388音訓[2352音・2036訓]を、告示した。

日本の歴史の上で「常用漢字」を作ろうとしたのは6回目のことで、そのうち2回は頓挫、不採択などの理由で日の目を見ず、実際に交付されたのは今回を含め4回である。また、今回の改定は戦後まもなく「当用漢字」として制定したものを大幅に見直し、戦後初めて「常用漢字」として1981年(昭和56年)に1945字を制定して以来、29年目のことである。

今回は従前の1945字+196字-5字=2136字ということで、追加196字は次の通り。

挨 曖 宛 嵐 畏 萎 椅 彙 茨 咽 淫 唄 鬱 怨 媛 艶 旺 岡 臆 俺 苛 牙 瓦 楷 潰 諧 崖 蓋 骸 柿 顎 葛 釜 鎌 韓 玩 伎 亀 毀 畿 臼 嗅 巾 僅 錦 惧 串 窟 熊 詣 憬 稽 隙 桁 拳 鍵 舷 股 虎 錮 勾 梗 喉 乞 傲 駒 頃 痕 沙 挫 采 塞 埼 柵 刹 拶 斬 恣 摯 餌 鹿 ?? 嫉 腫 呪 袖 羞 蹴 憧 拭 尻 芯 腎 須 裾 凄 醒 脊 戚 煎 羨 腺 詮 箋 膳 狙 遡 曽 爽 痩 踪 捉 遜 汰 唾 堆 戴 誰 旦 綻 緻 酎 貼 嘲 捗 椎 爪 鶴 諦 溺 ? 妬 賭 藤 瞳 栃 頓 貪 丼 那 奈 梨 謎 鍋 匂 虹 捻 罵 ? 箸 氾 汎 阪 斑 眉 膝 肘 訃 阜 蔽 餅 璧 蔑 哺 蜂 貌 ? 睦 勃 昧 枕 蜜 冥 麺 冶 弥 闇 喩 湧 妖 瘍 沃 拉 辣 藍 璃 慄 侶 瞭 瑠 呂 賂 弄 籠 麓 脇

削除5字は
勺、錘、銑、脹、匁

※編集部より:「??」の文字はWeb環境によって表記できない漢字です。
  詳細は改定常用漢字 http://www.bunka.go.jp/bunkashingikai/soukai/pdf/kaitei_kanji_toushin.pdf 

また、音訓も29音訓が追加、1訓が変更、3音訓が削除になった。

どのような基準があったのかはわからないが、今回の追加字を見ていると、冒頭の府県の表記も含め、「この字が常用漢字ではなかったのか?」と不思議に思うものが少なくない。

追加字の中だけで組み合わせてみても、「はちみつ」も「だんな」も「しりもち」も常用漢字としてはなかったのだ。

先般お亡くなりになった井上ひさし氏は、1981年の常用漢字の制定で横行するようになった「交ぜ書き」を『歯切れが悪くて、まことに不愉快』な表記と批判し、著書『にほん語観察ノート』の中で次のように列記している。

「交ぜ書きというのは、例の、位はい、改しゅん、がい骨、せき髄、折かん、ら致…と落ち着きの悪い表記のことです」。

今回は氏の挙げた、交ぜ書きの例の中で「骸骨」「脊髄」「拉致」が謂わば「復活当選」したことになる。もちろん氏は上記ひらがなで書いたものを、すべて常用漢字に入れなさい、と言っているのではなく、使いたい漢字はしっかり使い、そこには振り仮名を振るべきだと説いている。

反対に削除された5字。「一合五勺」「紡錘」「銑鉄」「膨脹」「花一匁」などと日常生活や一部業界の中では、まだまだ使われている言葉なのだから、外すこともない気がする。2136字が2141字になったとしても、大学受験などの定員数ではあるまい、然したる問題ではないと思うのだが。

「一合五しゃく」「紡すい」「せん鉄」「膨張(今はこちらが主流か)」「花いちもんめ」と、新たな交ぜ書き、書き換えをすることになるのだ。風情に欠けはしないか?

さて、この新しい常用漢字表、よく見ていると結構面白いものがある。まず「前書き」「表の見方及び使い方」と解説していき、次にあるのが「(付)字体についての解説」。

これは「明朝体のデザインについて」と「明朝体と筆者の楷書との関係について」解説されている。前者は例えば「点画の組み合わせについて」の項では、長短、つけるか、はなすか、接触の位置、交わるか、交わらないかなど、いくつかの明朝体のデザインによって微妙に生じる「字形」の異なりを「字体」の違いと考えなくてよいと、それぞれの字形を挙げて、神経質なほどに解説しているのだ。

例を挙げると、雪の下の「ヨ」の部分の、真ん中の横線が、デザインによって上下の線よりも長いか短いか、あるいは同じでもOKですよ、と説く。

後者は例えば、「明朝体に特徴的な表現の仕方があるもの」の項では、折り方、点画の組み合わせ方などによって楷書とは違いが生ずるが、それもまたOKですよということなのだ。

こちらも例を挙げると、衣は楷書で書くと、「レ」となるのだが、明朝体だと折り方が違うけれどもそこは気にしないでということを、実際に明朝体の横にペンで書かれた楷書を併記して説明している。ちょっと微笑ましくなってしまうほどだ。

もうひとつ、常用漢字表「本表」の下に付けられた「付表」を見るのもなかなか楽しい。こう書かれている。

「※以下に挙げられている語を構成要素の一部とする熟語に用いてもかまわない。
例「河岸(かし)」→「魚河岸(うおがし)」「居士(こじ)」→「一言居士(いちげんこじ)」
とあり、表が始まって「あす 明日  あずき 小豆……(金井中略)よせ 寄席  わこうど 若人」と、本来の読み方では読めない漢字の表記が並べられている。

ずっと見ていくうちに、文部科学省文化審議会の方々は、かなり細かくてお節介な人々だなあと感じてしまった。「そんなに言われなくても、こちとらわかっているってんだよ」と熊さん八つぁんに言われてしまいそうな長屋の大家さん、そう「小言居士 こごとこじ」のような。

-…つづく

 

 

第179回:動転ともにフレンドリーに行こう

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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