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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと
第163回:私の蘇格蘭紀行(24)
更新日2010/04/01


リズモア島へ
(今回は、連載コラムの中の「第25回:リズモア島を歩く」と重複する部分がかなりありますが、紀行文の流れとしてリズモア島のことはここに入れたかったため、どうかご了承いただきたいと思います)

4月20日(火)スコットランドに来て初めての島行き。朝起きたとき、やはり心が躍っていた。

朝食の席で、隣室の若い女性泊まり客にも、"Lismore? Oh, quiet island!"と、「ずいぶん地味なところへ行きたがる人ね」というように、顔をしかめて首を振り、両手を広げる仕草をされたが、私は、「なに、ミーハーな島より渋いのだ」と日本語で答えておいた。

宿から10分ほど歩き港に着いて、まず大きな埠頭で10:00発のマル島、アイオナ島行きの豪華客船のような大型フェリーを見送る。タラップから乗客が次から次へと乗っていった。かなりの数の人たちだ。

リズモア島行きは10:45発。同じ埠頭からと思っていたら、その隣の小さな船着き場。ちょうど、少し前に廃止になった川崎、木更津間のフェリー乗り場のような雰囲気である。

そこから定員30名くらいの小さなフェリーに乗り込むのだが、船員3名乗り組んでいるものの、結局この時刻発の船の乗客は私1名なのである。始めは甲板に立って格好をつけていたが、寒くなったので無人の客室へ。客室内もそれ程暖かくなく、他の客はいないし、どんな島なのか不安になり、窓から波頭を見ながら大声で歌謡曲を歌い続ける。

50分でリズモア島に着いた。とにかく旅行案内所なりコーヒーショップなり、まずは暖かいところに入ってどこを回ろうか考えようかと思ったが、そんな温もりを感じることができる建物が見あたらない。船着き場近くにある唯一旅行者を意識した施設は、男女のトイレが両脇についた冷たい小屋のような待合室だけだ。後はなにもない。

覚悟はしてきたもののあまりのことで、それでもどこか入れる場所はないかと、おそらく島を縦断する幹線と思われる道を歩き続けたが(後で地図を調べると南西の方角に進んでいたようだ)、途中からそんな考えはあきらめてしまった。歩き始めに、車に乗った島の人3人とすれ違ったが、あとは誰とも会わない。羊と大きな牛、そして犬と鶏たちに出会うだけだ。

美しく海の見える、なだらかな緑の丘を何度か上り下りしながら、いろいろなことを考えていた。そして、風が強く寒い道をずっと歩き続けることによって、今まであれこれと悩んでいた些細なことがらが、徐々に頭から遠のいていった。

そのうちに、ひとりで道行くことのとんでもない寂寞感と、限りなく自由だという解放感が、時を同じくして胸の中に「こつん」と込み上げてきた。私にとっては、これは初めてのとても不思議な感覚だった。もしかすると、ひとり旅とはこの感覚を味わうためにあるのかも知れない。この島を訪ねてきて、よかったと思った。

公道の行き止まりまで歩いて、またもと来た道を引き返していった。帰りは迎え風になり、前へ進むのに少し往生した。帰り道標札を見てわかったのだが、船着き場の地名がAchnacroish、折り返しをした場所はAchinduin(両方ともどう発音するかわからない)、往復約7マイル(約11km)のウォーキングだった。

先ほどの船着き場の待合室に戻ったのが14時10分過ぎ。約2時間半歩いていたのだ。オーバンに帰るフェリーの時刻が15:45だったので、約1時間半の間、私は待合室の椅子に腰掛けポケットに手を突っ込んで、ただ黙してその時を待った。なぜだかよく自分では説明できないが、とても清々しい気分だった。

船が着いたとき、高校生らしい女の子が二人乗ってきていた。ウォーキングの途中で、Primary Schoolと書かれた看板のある建物を見たが、小学校にしては子供の喚声ひとつ聞こえてこなかった。おそらく児童数が極端に少ないのだろう。まして、高等教育を受けさせる施設は、この島にはないに違いない。だから、生徒たちは「本土」であるオーバンにある高校に通っていることだろう。

私は、彼女たち下船する乗客とすれ違うとき"Hi ya!"(こんにちは)と声をかけ合いながら船に乗り込み、この島を離れた。

オーバン着16:35。オレンジ色の西日が、美しく港を照らし始める時刻だった。

-…つづく

 

 

第164回:私の蘇格蘭紀行(25)

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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