第183回:私は死にたくない…
タイトルの『私は死にたくない』は、スーザン・ヘイワードが主演した大昔の名画から拝借しました。また、古いことを持ち出したと言わないでください。これはある女性が無実のままガス室(アメリカは州によって毒ガスで死刑を執行しています)に消えた、背筋が寒くなるような話です。
死刑は一旦、刑が履行されてしまうと、その後、無罪と分かっても元に戻せない、死んだ人は甦らせることができないという、動かせない事実があります。アレッ、間違った、勘違いした、すみません、その分、お金、年金でご勘弁のほどを! とは言えないのです。もちろん、誤った判決で長年牢屋に繋がれていた人の人生が、少しばかりのお金で取り戻せるわけではありませんが、それでも、殺されてしまうよりははるかにましです。
DNA鑑定が裁判に持ち込まれるようになってから、昔の判決が覆される例が多くなりました。アメリカでは「イノセンス・プロジェクト」(無罪プロジェクト)というグループが細々と活躍していますが、それはすでに死刑になった例よりも、今死刑の判決を下され、殺されるウエイティングリストの人が対象ですから、今までどれだけ誤った判決で殺された人がいたのか、想像もつきません。
アメリカで、現在、死刑ウエイティングリストは3,000人もいます。アメリカはなんでも世界一でなければ収まりがつかない国ですが、こればかりは中国に負けています。アムネスティの推定では、2009年に中国で2,000~3,000人が処刑されているそうです。そういえば、2010年に不注意な日本人4人が麻薬密輸の罪で死刑になりましたね。
中国では、死刑の守備範囲が至って広く、政治犯は言うに及びませんが、経済犯、役人の収賄、窃盗、詐欺にまで及び、政府か党がここらで見せしめのため2、3人首をヒネッテおくかといった感覚で死刑にしているようにさえ見えます。
死刑を行う国は、それ自体人命尊重に逆行する後進性を表していると思うのですが、アメリカと中国という二つの野蛮な国は、さもありなんとうなずけるのですが、日本が死刑を履行していると知り、大きなショックを受けました。あれだけ文化のレベルが高く、仏教の影響が強い日本でどうして死刑が未だにあるのか理解できません。千葉景子さんが法相になる前は、確か死刑反対論者だったと思いますが、法相になった途端、意見を変えて結局死刑を執行しました。
2005年から2006年まで法相だった杉浦正健さんのときにはゼロでしたが、2006年の長勢甚遠さんのときには10人、鳩山邦夫さんのときに13人を絞首台に送っています。今、ウエイティングリストに100人ほどいます。
現在、死刑を行っている国は世界で58ヵ国、死刑を廃止している国は95ヵ国あります。 ヨーロッパでは27ヵ国すべて、死刑を廃止しています。またECに入ろうとしているトルコも2002年から死刑廃止に踏み切りました。もちろん、死刑復活論もあります。でも、ギロチンを発明したフランスでさえ、高らかに死刑復活を唱えるのは極右グループだけです。
アメリカでの死刑廃止論は主に、お金の面から出てきています。何でもお金次第のアメリカ、これこそ地獄の沙汰も金次第ですね。というのは、死刑はとてもお金が掛かるのだそうです。死刑の判決を受けると、公選弁護人を二人付けなければならず、公選弁護人としては、あっさりそうですか、それではこの容疑者を死刑にしちゃいましょう、とは言えず、必ずと言ってよいほど最高裁まで持ち込みます。
この弁護士と裁判の費用、そして死刑囚は独房に入れる決まりがあり、超満員の刑務所で個室を確保するのはゴールデンウィークで人気リゾートに部屋を予約する以上に難しく、これまたお金がかかり、平均すると死刑囚一人を殺すのに1億5,000万円くらいかかるのだそうです。それなら、終身刑にして雑居房に入れておいたほうが安上がりだと言うのです。
韓国では、制度としての死刑はありますが、日本に亡命したこともあり、自身死刑の判決を受けていた金大中氏が大統領になり、死刑を止めて以来13年間死刑になった人はいませんから、事実上廃止になっていると言ってよいかもしれません。
日本が裁判員制度を導入したとき、犯罪の犠牲になった人の親、兄弟、妻や夫の無念さを思いやる発言が目立ち、死刑の判決を下す難しさばかり語られていましたが、死刑制度を持つことは、間違った裁判で、あなたが死刑になる可能性があるということが忘れられているように思います。
私はイランで石打ちの刑で死にたくありませんし、アメリカの毒ガスで殺されたくありません。日本で縛り首になるのもごめんこうむりたいのです。
私も犯罪を憎むことは皆と同じですし、愛する人を殺害した犯人を殺してやりたい気持ちも分かります。ですが、裁判は復讐ではないのです。死刑制度を持つこと自体が大きな人道的犯罪だと信じています。
また、とてもショッキングな数字ですが、日本の内閣府の調査の結果、死刑賛成が85.6%、反対がたったの5.7%でした。心優しい、思いやりの心を常に忘れない日本人は一体どこへ行ったのでしょうか。
罪を憎んでも人を憎むなという思想は、忘れられてしまったのでしょうか?
第184回:スーパー南京虫のリバイバル
|