銚子電鉄を往復したあと、次に目指す路線は鹿島鉄道だ。鹿島鉄道は常磐線の石岡から太平洋に向かって鉾田に至る、27.2kmのローカル私鉄で、銚子からだと距離的には鉾田が近い。鉄道で向かうなら、成田線で香取に行き、そこから鹿島線で鹿島神宮へ、さらに乗り換えて鹿島臨海鉄道で新鉾田へ行き、徒歩で鉾田に向かうルートになる。しかし列車の接続が悪く5時間もかかる。鉄道が三角形の頂点のように迂回しているせいでもある。
銚子大橋から利根川河口を眺める。
そこで、バスを乗り継ぐことにした。バスなら三角形の底辺を行き、鹿島バスターミナルの接続も良く、3時間で済む。2時間も得した気分だが、3時間もバスに乗るとは少々気が重い。銚子と鹿島を結ぶ都市間バスだから快適な車両に違いないと期待したけれど、ごく普通の路線バスである。銚子を出てすぐに利根川を渡り、日本にも大河のような景色があるものだと目を見張ったものの、それ以外の景色は凡庸だ。真っ直ぐ走ればもっと早く行けそうな道のりを、集落を求めて蛇行するからじれったい。住友金属の工業地帯を通るけれど、特長的な建物は門の奥の方にある。日本の工業力を実感したいなら海から眺めたほうがいいかもしれない。
結局、2本乗り継ぐ予定のバスの1本目は居眠りで過ごし、私もMさんも退屈したため、鹿島神宮からは鹿島臨海鉄道に乗った。この路線には20年ぶりに乗る。旅客鉄道としてはローカル線だが、元々は貨物輸送が本業で、工業地帯の幹線である。私たちが乗った列車は1両のレールバスだが、すれ違う貨物列車は長い。駅も貨物用の側線が多い。やっぱり鉄道のほうが楽しい、と再認識する。鉄道の施設が見えるから、というだけではなく、景色が移り変わる速度がちょうどいい。変化の無い景色が続くと退屈するのだ。
新鉾田駅は高架駅だ。コンクリートがむき出しで飾り気はなく、堅牢そうだが冷たい印象を受ける。長い階段を降り、閑散とした駅前広場で地図を確認して鉾田駅へ歩いていく。新築中の家の木組みを眺めつつ歩くが、鉾田駅を示す標識がなく不安になり、ガソリンスタンドで道を訊ねた。店員がちょっと戸惑った表情をする。クルマ用の店ではあるけれど、クルマで駅に向かう人もいないのだろう。鉄道に用がある人は少ないのだな、と思うと寂しくなる。
鉾田駅は静かな佇まい。
新鉾田駅は町の外れで、鉾田駅が街の中心だ。少しずつ商店が増えてくる。古い町らしく、鉄の骨組の防災塔が立っている。駅はすっかり町並みに溶け込んで目立たない。街角で、生垣の向こうには何があるかと覗くと、そこにディーゼルカーが佇んでいた。鉾田駅は平屋の駅舎とそこからスロープで上れるホームが1本。懐かしさあふれるローカル駅の風情で、このまま小さくして飾りたくなる。Mさんも
"これはいいなぁ" と嬉しそうだ。彼は鉄道模型のジオラマ作りが趣味だから、創作意欲をかきたてられたに違いない。
その趣のある駅舎に立ち食い蕎麦屋があり、昼食とする。肌寒い季節だが、熱い汁をすすると体が温まる。傍らで鯛焼きも作っており、焼きたてをひとつ買った。駅舎やディーゼルカーのを撮っておきたいが、食い気が勝ってしまったせいで時間がない。駅員氏にせかされて車中の人になった。たった一両の車両に乗客は数人。少ないが、今日は土曜日で、ふだんは鉄道で通勤する人もマイカーで出かけているのだろう。鹿島鉄道も赤字営業で、存続が危ぶまれる路線である。近隣の自治体から支援を受けている。自衛隊百里基地という上得意があるのだが、そこへの燃料輸送が終了するそうだ。
晩秋の陽射しは低く、昼を過ぎれば長い夕ぐれのようである。鹿島鉄道の見所は、鉾田から数えて6つ目の"浜"駅からだ。ここから桃浦の先まで、約5kmが霞ヶ浦の沿岸になる。線路が東側だから、夕日を見ながら走るわけだ。まだ日没には間があるけれど、雲の隙間から淡い陽射しが落ち、水面を輝かせている。ぽつりぽつりと、木立に守られた家がある。クルマも人も逆光に沈み、影絵のようだ。そんな景色が約8分間。レールの継ぎ目の音、ディーゼルの鼓動が耳に慣れてしまうと、静かで、はかない幻影であった。
車窓より霞ヶ浦を望む。
石岡駅はJRの駅構内で、常磐線の上りホームと共用のため、私達には都合がいい。ホームの東側一帯は鹿島鉄道の車庫になっていて、新しいレールバスや、夕張鉄道から譲渡された古い車両が並んでいる。日中は1時間に1本しか走らない路線だが、朝は15分おきに発車する。車両数から察して、平日の乗客は多いらしい。
常磐線の上り列車が到着するまで、ディーゼルカーの群れを眺めた。このあと、上野まで真っ直ぐ帰ってもいいし、途中の佐貫で降りて、関東鉄道竜ヶ崎線に乗ってもいい。しかし、日が暮れると景色は見えない。往復するだけですがどうしますか、とMさんに相談し、せっかくだから乗って帰ろうと決まった。
関東鉄道竜ヶ崎線に立ち寄る。
関東鉄道竜ヶ崎線は、佐貫から竜ヶ崎までのたった2駅、4.5キロの短い路線だ。車両は新しいレールバスで、車内はまばゆいほど明るい。短距離だということを除けば、東京近郊の私鉄と雰囲気は変わらない。それは利用者にとってはありがたい話だけれど、見物人の私達はちょっと困る。外が暗いと、窓ガラスに反射して景色が見えないのだ。ただし、運転台が半室構造になっていて、先頭の窓に額を付けるとなんとか景色が見える。竜ヶ崎は農村からベッドタウンへと変貌する街で、市の人口は約6万人。佐貫からの沿線は闇に包まれている。だが、目指す街は煌々としていた。
■第35回~36回
の行程図
(GIFファイル)
2003年11月15日の新規乗車線区
JR:0.0Km 私鉄:38.1km
累計乗車線区
JR:15,555.5Km 私鉄:2,357.1km
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