営団地下鉄最後の未乗区間、浦安-西船橋間に乗るために、茅場町から東西線に乗る。東西線は営団地下鉄で唯一、快速列車を運転している路線だ。乗客数の多い地下鉄で快速列車を運転するには、途中の駅で各駅停車を追い越すための設備を必要とする。しかし、地下鉄の場合はトンネルを掘るためにお金がかかるので、退避駅を作りにくい。東西線が快速運転を実施できた理由は、南砂町の先から地上区間にして、葛西に追い越し設備を作ったからだ。
快速列車に乗ればすぐに目的を果たせるけれど、私は各駅停車を選んだ。未乗区間のひとつ手前の葛西駅で降りるためだ。電車は葛西駅の手前で速度を落とし、ポイントを曲がって退避線に入った。葛西駅は快速列車が通過するので、ホームは退避線にしかない。
なぜ葛西で降りるかというと、地下鉄博物館があるからだ。地上区間の高架線の下を博物館として開放し、古い車両やトンネル工事の模型を展示している。この連載を始めるとき、地下鉄博物館は改装中だった。いずれ東西線に乗るなら、ついでに地下鉄博物館に立ち寄りたい。これが地下鉄完乗の時期を伸ばした理由であった。
地下鉄博物館に保存されている車両。
車内にも入れる。
改札口を出て、環状7号線を歩道橋で渡り、博物館に入る。夏休みのため子供がいる。しかし、混雑はしていない。そろそろ宿題に追われる時期かも知れない。もっとも、展示を見ればなんとなく理由もわかる。私には興味深い内容だが、古い車両は子供達には馴染みがないし、トンネル工事の模型も難しい内容だ。子供が好みそうな展示物は電車の運転シミュレーターと鉄道模型パノラマくらいである。模型の運転は1日に4回しかなく、1時間前に1回目が終わり、2回目まではまだ1時間も先だ。結局、賑やかな場所は運転シミュレーターだけだが、そのおかげでゆっくりと見物できた。
葛西駅に戻ると各駅停車が停車中だ。快速の通過を待っている。しばらくして電車の音が近づき、勢いよく駆け抜けた。続いてこちらも発車する。次の浦安から未乗区間が始まる。そのまま乗っていてもいいけれど、浦安で降りて2本あとに来る快速を待つ。快速電車は西船橋から東葉高速鉄道に乗り入れて、終点の勝田台まで行くからだ。営団地下鉄完乗の終着駅が、そのまま未乗路線の始発駅になっている。快速電車は営団地下鉄東西線の最新型車両だった。
東葉高速鉄道直通の快速電車。
最新型車両だ。
集合住宅が並ぶ景色を眺め、江戸川を渡り、左からJR総武線が近づいて、約10分で西船橋に到着した。この電車は東葉高速線に乗り入れるが、東西線にはJR総武線に乗り入れて津田沼まで行く列車もある。東西線は西端も中央線に乗り入れて三鷹まで行く。地下鉄の相互乗り入れは各地で実施されているけれど、両端で同じ会社に乗り入れる例は珍しい。ちなみに中野-西船橋間はJRだと49分、540円。東西線快速だと42分、300円。東西線のほうがメリットは大きい。乗り入れ最長区間の三鷹-津田沼で比較すると、所要時間は大差が無いものの、東西線まわりのほうが缶ジュース1本分安くなる。東西線まわりの切符を買ってJRに乗りとおせば得だが、これはキセルである。キップは経路どおりに買うべきだが、では、スイカで東西線をまわった場合、どのようにチェックするのだろう。
西船橋からは先頭車両に行き、前方の景色を眺めた。正面の線路は上り坂になっている。おそらく総武線路の線路をまたいで津田沼方面に繋がるのだろう。私の乗った電車は地中に潜り、総武線を潜って地下駅の東海神に着いた。真上を東武野田線が走っているはずだが、野田線の駅はない。船橋駅に近いところだ。地下鉄になってしまうのかと落胆したが、程なく地上に出た。
運転室の後ろにカーテンがあり、前方の展望が楽しめないので、ロングシートに移った。営団の新型電車は窓が大きい。畳よりも大きいような気がする。ロングシートの中央に座っていると、映画館のスクリーンのようだ。車窓は映画と同じで、同じ映像が出てこない。住宅が減り、だんだん緑が増えていく。そんな景色を眺めるだけで飽きない。
飯山満と書いて "はさま" と読む駅がある。いいやまみつるという名の人がいたら喜ぶか照れるか、どちらだろうと思う。郊外の新線は踏み切りもなく、適度に住宅地と離れている。そのせいか、列車が速くて気持ちいい。大規模に宅地を造成中の地域があり、そこから先は建物が増えて、やがて地下に潜った。終着駅の勝田台はもともと京成電鉄の駅があり、既に発展していたために地下鉄にならざるをえなかったと思われる。京成の駅と同じ名前にせず、わざわざ東葉勝田台、と書くからには、京成の駅とはなれているのではないかと推測したが、改札口はとても近かった。
営団地下鉄の完乗も果たしたし、東葉高速鉄道にも乗った。上出来だが、まだ時間がある。京成で2駅ほど足を伸ばし、ユーカリが丘線に乗ろう。この路線は神戸のポートライナーや東京お台場のゆりかもめのような新交通システムだ。ただし、自治体が建設した路線ではなく、地元の不動産業者が宅地開発のために建設した。住民サービスのために作られた路線だから、京成のユーカリが丘駅を出ると、地域をぐるっとまわって元の駅に戻るルートになっている。
山万ユーカリが丘線。
関東地方初の新交通システムである。
案内標識をたどって乗り場に行くと、遊園地の乗り物のような入り口がある。パスネットは使えないとのことで切符を買う。階段を上がると、丸っこい車両が待っていた。正面にコアラの絵が描いてある。ユーカリが丘だからコアラなのだろう。日本に自生していない植物を地名にして開発するとはたいしたものだ。
電車に乗ってすぐ気付いたが、この車両には冷房装置がない。買い物帰りのおばさんが歩き回って、すべて窓を開けている。
「この電車は冷房がないんですね」と話しかけると、そのとおりだ、暑くてたまらない、と言われた。通勤と通学で乗る人ばかりで、乗る時間も短いから、お金をかけるつもりが無いのだ、とこぼしている。ふだんは自転車で移動しており、今日は雨になりそうだから乗ったのだという。たしかに近距離限定の移動手段のようで、一周は約5キロ。ということは、ユーカリが丘からもっとも遠い駅までは2~3kmくらいだと思われる。
ユーカリが丘にちなんだユーカリはどこにあるのか、と訊くと、平行する道路の並木がユーカリだという。言われてみれば、見かけない木のような気がする。ところどころに見える公園の樹木もユーカリなのだろう。バブル景気の遺産だと穿った感じ方もできるけれど、高架線から見るかぎり、住宅環境はよさそうだ。ただし、駅は日陰者扱いのようで、集合住宅の裏庭のような場所にひっそりと停まる。もちろん、全区間を乗りとおした珍客は私だけだった。
ユーカリが丘ニュータウン。
樹木が多いせいか、涼しい風が入った。
■第19、20回
の行程図
(GIFファイル)
2003年8月20日の乗車線区
JR:0.0Km 私鉄:41.5km
累計乗車線区
JR:15,043.0Km 私鉄:2,169.4km
#累計乗車線区の私鉄は、2002年分の記入漏れ(42.8Km)を追加しています。
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