15時39分仙台着。これから暗くなるまで仙台市内観光を楽しみ、新幹線の最終で帰ってもいい。しかし私は仙山線で山形に向かい、山形新幹線で帰るつもりだ。仙山線には昨日も乗ったけれど、途中から暗くなって車窓が見えなかった。乗ったからには踏破リストに加えてもいいけれど、このままでは仙山線の印象が薄い。乗り放題の周遊きっぷを持っていることだし、明るいうちにもう一度乗り直したい。
仙山線の次の列車は15時45分発。ただしこの電車は途中の愛子で打ち切りだ。その次の16時18分発も愛子止まり。その次の16時34分発になって、ようやく山形行きになる。どうやら仙山線は愛子を境目に雰囲気が変わるらしい。愛子までは仙台の通勤圏、そこから先は……どうだろう。仙台も山形も県庁所在地駅である。鄙びたローカル線というわけでもないはずだ。日中の山形行きは1時間に1本、朝夕は1時間に2本。この地域としては便利だと言えそうだ。
仙山線ホームにはすでに電車が待っていた。東海道線の211系という古いステンレスカーに似ているが、車体形式は719と書かれている。百番代の7は交流区間線用という意味だ。通勤電車と中距離輸送を兼ねた用途で、車内はボックスシートが備えられている。座席の半分ほどが埋まっており、私は進行方向右側の席に空きを見つけた。
仙台付近は高架区間。
電車は仙台駅を出ると新幹線の高架をくぐり、そのまま高架下を東北本線に沿ってしばらく走った。やがて脇道へ迷い込むように右に別れ、ふたたび新幹線をくぐった。山形は左のほうでは? と不思議に思うまもなく線路は上り勾配となり、またまた新幹線を潜り、東北本線を超える。まるで鉄道模型のような線路形態だ。
列車はそのまま高架線を走り、東照宮駅に着いた。ホームにはぎっしりとお客さんが並んでいる。近くに仙台東照宮があるようだが、付近は住宅がびっしりと並んでいる。参詣目的の駅ではなさそうだ。単線の高架駅は珍しくないが、この乗客数は複線の片側並みである。
次の北仙台駅は高層マンションに囲まれた賑やかな街だ。やはり乗降客が多い。ホームは島式で、初めて対向列車とすれ違う。こんなに大きな街を走るのに単線でいいのだろうか。複線にすれば15分に1本くらいで列車を走らせられそうだと思う。もっとも、ここは仙台地下鉄が通じている。街を大きくした理由は地下鉄の効果かもしれない。
林の向こうに大きな観音像が見えた。
線路は上り勾配で高架線から林の中に入った。沿線に並ぶ木々の隙間から、白く大きな観音像が見える。周囲の風景とは釣り合わない大きさで、この地に何事が起きているのかと思う。横須賀線から見た大船観音も目立つけれど、あれは森の中に座っているからまだ温和しい。しかしこの観音様は山の上に威勢良く立ち上がっている。あれは仙台大観音といい、中に土産物屋や見せ物があるらしい。大仏や観音像は人心を鎮めるためにあると思うが、見下ろされるとなぜか不愉快になる。下品だと思う原因は私の信心のなさだけだろうか。
北山でごっそりとお客さんが降りた。住宅街の駅である。列車はここからしばらく林の中を走る。木立の隙間から西日が射し、車内の壁をパタパタと照らしている。一瞬、その車窓を建築現場が横切った。春から開業する予定の東北福祉大前駅だ。大学がJRに請願した駅で、費用は大学持ちである。周囲は住宅も多くJRのメリットも大きいはずだ。昨日、米坂線で会った少女も春からここに通うのだろう。
仙山線はもともと仙台と山形を短絡する路線として計画されたため、中間の駅は少なかった。それが仙台都市圏の発達に合わせて新駅を次々に設置してきた。元々駅のないところに駅を作ったから、かなり無理をした駅もある。北山や国見などは勾配の途中にあり、電車の時代でなければ駅など考えられない場所である。
国見の女学生さんたち。
国見は列車交換ができる駅で、ホームは上下線用に独立している。仙台方面のホームに若い女性がたくさんいる。東京の郊外の駅のようだ。地図を見ると東北文化学園という専門学校があった。どの子も清楚なコート姿で、控えめながら化粧をし、楽しそうに笑っている。仙台で遊んで帰るのだろうか。この時間に逆方向の電車に乗れば、かなり賑やかな旅になっただろうと思う。
葛岡付近。
国見を出ると山の中である。建物は少なくなり森に囲まれる。冬だから木々は枯れ、葉も少なく、自然に任せた荒れた風景だ。その森を深く進んでトンネルに入った。トンネルを出ると葛岡駅。ここもかなり急な下り坂になっていて、電車時代になってからの新駅だとわかる。車窓右手にはロッジ風の煉瓦色をした屋根が並んでいる。植栽も多く高級そうな建物だ。車窓左手の丘は葛岡霊園という公園墓地。住宅が拡大すれば住む人が増え、生きる人が増えれば死ぬ人も増える成り行きだ。葛岡はどちらにも安らかな場所として開発されたようだ。
葛岡を出た電車は、下り坂の勢いに任せるように早足で駆け下りていく。途中で東北自動車道を超えるけれど一瞬で過ぎていく。勾配を下りきると陸前落合駅。平地なだけに住みやすいのだろう、大規模なマンションが建っていた。車窓右手の団地が大きい。棟に14番と書かれているので、少なくともあの規模の建物が14以上建っていることになる。体育館も見えた。団地の子供たちを引き受ける学校だろうか。
広瀬川を渡る。
ここからは平地を進む。住宅は多いが乱雑な配置で、区画整理された仙台付近とは違う趣である。建て売りよりも注文建築が多く、家のひとつひとつが堂々としている。アパートも多い。畑を辞めて学生や独身者用の部屋を提供する人も多いのだろう。建て売り住宅が並ぶ住宅地よりも、さまざまな大きさの建物が混在する風景のほうが生活感がある。単線で本数が増やせないとはいえ、やはり仙山線が便利だから人が住むのだ。いろいろ事情があるかもしれないが、複線化して本数を増やせば、もっと街が発展して乗客も増えるだろうと思う。
愛子駅に着いて、その感は益々強くなった。駅は近代的な作りでホームは2面。線路は3本。東京近郊の住宅街の雰囲気である。駅周辺は高級住宅街のようであり、駅前にはロータリーもある。平日の朝は奥様の運転で出勤する旦那さんがキス&ライドを演じていそうだ。愛子止まりの電車の乗客たちは、このロータリーからそれぞれの方向に散っていく。しかし、さらに山形方面を目指す人も居るようだ。私は高校生のカップルのどうでもいい会話を盗み聞きしつつ、缶コーヒーを飲んだ。ここから先、仙山線はどうなるのかと思いながら。
愛子駅着。
-…つづく
第182回からの行程図
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