第601回:車がなければ生きられない!
アメリカを車で旅行したことがある人なら誰でもすぐに気付くことですが、一つの町、東部、中西部、西部にかかわらずどんな小さな町にしろ、そこに差し掛かり町に入る時、まず現れるのが街道筋両側に占めるカーディーラーです。
それがまたアメリカ的に広く、大きく、何百台もの車を並べ、遠くからでも目立つように、高い塔の上に“Ford” “Chevy”*1 “JEEP” “Toyota”など、ハデハデしい看板を掲げています。また、個性がないというのか、どのディーラーも田舎町のお祭り広場よろしく、電線やロープを張り巡らし、そこに同じようなランプや三角形の旗をはためかせているのです。
これら自動車メーカーの正規ディーラーのほか、中古車屋さんもたくさんあります。これもアメリカ的にとてつもなく大きく、200-300台を並べ、選り取り見取り、フロントガラスに年式と値段をペンキでベタベタと大きく書き、売り出しています。
マクドナルドやバーガーキングなど、本来すぐ目に付くはずの宣伝タワーが車屋さんの間に埋もれてしまっているかのようです。小さな町なのに、車の数の方が町の住人より多いのではないかと思いたくなるほどです。
確か、アメリカ人一人当たり1.3台の車を持っていることになるのだそうですから、人口より車の数の方が多いのです。これは運転できない赤ちゃんや子供も含めてのことですから、運転免許を持っている歳の人だけを対象にすれば、さらに増えるでしょう。それに、これは自動車税を払って登録している車だけのことです。と言うのは、田舎では、自分の土地、牧場や森の中で使う車は登記していない、自動車税を払っていない車、ピックアップトラック、牛追いに使うバギー、トラクター、耕運機などが相当数あるのです。
特に車なしでは生きられない中西部、西部、南西部の人々にとって、車は文字道理“足”です。私の友人で100歳を越したディーンお爺さん、歩くのがおぼつかないのに頑として車を手放さず、トヨタを乗り回しています。
私の叔母さんは糖尿病が悪化して右足を切断し義足を付けていますが、左足だけで運転できるように車を改造し(社会保障でそのように改造する費用が出るのです。また、ありとあらゆる障害者用に車を改造してくれる工房がたくさんあります)、買い物、教会へ行く時だけでなく長距離運転もこなしています。彼女は現在88歳です。
隣人は私たちと同世代で、ダンナさんのバッドは、この台地の郡道の除雪、メインテナンス、管理の仕事をしています。ですから、牧場や農園に必要な車は持っていませんが、それでもトラックが4台(彼の通勤用の新車大型トヨタツンドラ、ハンティング用のシェヴィー、除雪用のフォード、雑用のシェヴィー)、そして奥さんのキャロル用の新車SUV(トヨタ、RAV4)、ほかにATV(All Terrain Vehicle;全地形対応車、日本ではバギーと呼ばれています)が2台、大きなキャンピングカー1台、総計8台を二人で所有しているのです。
私の家族を見ても、確実に車の数の方が、その家に住でいる人の数より多いことに気が付きました。と、偉そうなことは言えません。私たちにしてから、私の通勤用のホンダアコード、キャンプや遊び用のトヨタSUV、そして薪の切り出しやブッシュ、ゴミ運び用のフォードトラックと3台も抱え込んでいることに気が付きました。いずれも大中古ばかりで、まだどうにか動いていますが、転売、下取りなど、査定価格はゼロに近い車ばかりですが、ともかく3台も所有しているのです。
私たちより決して多い収入があるとは思えない隣人のバッド、キャロル夫妻がどうして高級な新車を何台も持つことができるのか? これは不思議でも何でもなく、借金、ローンで買えるからです。
アメリカ人の大半は車を、新車、中古車にかかわらず、ローン、月賦、年賦で買います。家のローンの次に大きいのが車のローンです。ところが、車はついつい隣に並んでいる豪華な最新モデルに目が行ってしまい、マア、このくらいの月賦なら払えるだろうと、買ってしまうものなのだそうです。
その結果、月賦の支払いが3ヵ月以上遅れている人が全米で700万人に及びます(「Washington Post」による)。カーディーラーはローン会社や銀行と提携していますから、カーディーラーも積極的にローンを勧めます。契約にもよりますが、通常、月賦の返済が3ヵ月以上遅れると、ローン会社は車を差し押さえに掛かります。
現在、85%の新車はローンで購入されています。アメリカの車ローンの総額は1兆ドル(110兆円相当)を越すとみられています。6.0%内外の高い利子(通常、6.2%です、昨年は5.0%でしたが…)が掛けられていますから、ローン会社、銀行が儲かるわけです。但し、皆さんがキチンと返済してくれればの話ですが…。
「CNBCニューズ」によれば、新車の平均価格は2008年に2万7,573ドル(303万円相当)でしたが、去年2018年には3万7,100ドル(408万円相当)になっているとあります。10年間で新車の価格が35%も上がっているのです。もちろん、私たちの給料はそんなに上がっていません。
平均すると1台の車を買うのに、皆さん3万1,000ドル(340万円ほど)の借金をしており、10年の年賦ですと、最後には総額5万ドル(550万円相当) を払うことになるのですが、車を買う時に、月々このくらいなら払えるだろう…としか考えが及ばないものらしいのです。
そこがセールスマンの付け目で、月々もう50~80ドル多く払うだけで、こちらの高級車を買えますよ…とやるわけです。ウーン、そうか、それくらいなら、どうってことない、払えるな、と大きい豪華な車の方に手を出してしまうのです。その時、高級車は自動車税、保険、燃料などの維持費もグンと高くなることなど、考えが及ばないものだそうです。
家計、財産コンサルタントが必ず言うことですが、車を買いに行く前に、銀行や他のローン会社に出向き、担当者と相談し、自分の収入に見合った上限価格をキチッと設定してから、ディーラーに行くのが王道だとしています。
私に言わせてもらえば、車みたいな消耗品、いつ事故るか分からないものを、ローンで買うなんてとんでもない。まず、どうにか車を買える金額を貯め、それから買いに行け、となります。早く言えば、“ない袖は振るな…”ということですが、なんとも旧世代の古臭い考え方だと言われそうです。私たちのように、家も土地も、もちろん車も全く借金のない人は、アメリカでは希少生物なのです。
アメリカンライフは、常に背伸びし、自分の収入よりも大きくハデな生活のために、ローンで維持するのが当たり前の時代になってきているのです。
-…つづく
*1:Chevy(シェヴィー):ゼネラルモーターズのシボレー(Chevrolet)の愛称
第602回:メキシコからの越境通学
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