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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第555回:無料で行ける公立大学

更新日2018/03/29




以前、明治大学の教授、鹿島茂先生のアメリカの大学事情(第550回)について書きました。大学の先生にはある程度の“シツコサ”が必要だといわれており、私もウチのダンナさんに、「オメ~のしつこさは相当なもんだ」とお褒めの言葉を頂くくらいですから、少しは研究職の隅に身を置く気質があるのかもしれません。

前の大統領選挙で民主党代表をヒラリーと最後まで争ったバーニー・サンダース候補は、大学までの学校教育をすべて無料にするという公約を打ち出しました。彼の試算によれば、アメリカの膨大な国家予算の中で、とりわけ軍事費、国防省、特別扱いの軍人年金を“チョット”改訂するだけで、大学の学費、授業料などを簡単に無料にできると言っていました。

ここからが、私の“シツコサ”の所以(ゆえん)になります。
無料で行ける大学があったのです。しかも私の母校でした。
私は西ミシガン州立大学を卒業しました。カラマズー(KALAMAZOO)という奇妙な名前の町に大学はあります。この町は大学と製薬会社のアップジョンの工場が二大産業のような人口7万5,000人ほどの町です。

私が西ミシガン大学に入学した時、両親はミズーリー州に住んでいましたから、他の州からの学生に適応される高い授業料(Out of State)を払わなければなりませんでした。それでも、アルバイトで授業料、生活費すべて賄うことができました。その時、ミシガン州の住人用の安い授業料が適応されれば、こんなにアルバイトをしなくて済むのにな~、授業料が無料にならないかな~と思っていました。

ところが、2005年にカラマズー市と大学が共同して“カラマズー・プロミス”という大学授業料を無料にするプログラムを作り実行したのです。それまでも、貧乏で優秀な学生に奨学金の形で大企業や市、個人のチャリティー資金が援助することはありましたが、市の住民なら誰でもタダで大学に行けるようにするというシステムは画期的なものです。

インターネットで申し込み要綱を覗いてみました。条件はとても緩いというのか、親の収入とか、高校の成績だとかは全く関係なく、大学で勉強したいという意思があるなら、確かに誰でも大学に行けると思わせるものです。

カラマズー市のお金を使うのですから、対象は市の住民の子弟に限られます。これだけが厳しい条件といえるかもしれません。まず、市の住民で、市の公立の高校を卒業した者だけという条件にさえ当てはまりさえすれば、皆無料で大学に行けるのです。

地元の公立高校という条件も、まず余程のお金持ちの子供でない限り、皆公立高校に行きますから、住民全員を対象にしていると考えてよいでしょう。そんな地元の高校…という条件を付けたのは、宗教法人が経営する高校、カソリック系、様々なプロテスタント系、それに東部の全寮制のエリート高校、最近多くなってきた自宅学習(ホーム・スクーリング)などを除外する意味合いが強いと思われます。最近流行り出したモンテソリー学校は私立ですが、数年前から認める方針に変わりました。

この無料の大学システムは、近年、この町に移住してきた難民家族にも適応され、すでに何十人もの難民の子供たちが卒業しています。

当然の結果ですが、カラマズー市の大学進学率は83%以上になりました。特に黒人の女性の進学率は77%(男子は50%ですが)で、全国平均をはるかに上回っています。高校の中途退学(ドロップ・アウト)率も低くなり、それまで、大学なんかとても行けない、ムリムリと諦めていた貧乏な人たちも、ヨシ、オレも私もと高校を卒業し、大学を目指すようになってきました(アメリカでは高校まで義務教育です)。

さてはて財源ですが、この“カラマズー・プロミス”が始まってから11年間で85ミリオンドル(90億円くらい)を使っています。大半をアップジョン製薬会社や地元の中小企業、それに“カラマズー・プロミス”を使って西ミシガン州立大学を卒業した卒業生の寄付で成り立っています。早く言えば、最初にきちんとレールを敷けば、汽車はその上を走るのです。要は最初に将来を見越した、大きな視野で計画を立て、実行できるかどうかなのでしょう。

卒業後、市に居残る卒業生が増え、その分、カラマズー市の財源も豊かになり、町の発展に大きく寄与しているという統計が出ています。“カラマズー・プロミス”に使ったお金は1ドルに対し、経済効果、見返りは11ドルになると経済学者は言っています。

先駆的なカラマズーの試みを懐疑的に観ていた他の町も、“カラマズー・プロミス”の成功を目の当たりにして、本格的に大学無料化を検討し始めています。ゆくゆくは、カラマズー市と西ミシガン大学だけでなく、他の大学と交換留学のように、様々な大学に無料で行けるようにしようと、拡張版の“カラマズー・プロミス”を検討しています。

教育は大学まで、勉強したい意思のある者には無料にするのが本筋だと思います。自分の卒業した大学がそんな素晴らしいシステムを作り上げたことを知り、嬉しくなって書いてしまいました。

-…つづく

  

 

第556回:“偏見のない思想はスパイスを入れ忘れた料理”

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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