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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第571回:日本人は“絵好み(エコノミー)アニマル”

更新日2018/07/19



昔、日本人自身で、自分のことをエコノミーアニマルと自称していたことがあります。日本が経済的に躍進した頃のことです。一時期、自分のことをイエローモンキーなどと自蔑していたこともあります。でも、アメリカやヨーロッパで日本人をそのように呼んだり、書いたりしている事実は全くなかったと思います。

絵好みアニマルの方は、本格的な事実で、毎回、上野の森で特別展覧会があると、ドッとばかり押し寄せる現象は、他の国にはちょっと起こり得ない、特異な現象だと言ってよいでしょう。人気がある印象派の絵画ばかりでなく、ベラスケス、フェルメール展に総計何十万人という人が訪れたニュースに接すると、日本人の芸術的関心の深さ、広さにタダタダ呆れるばかりです。

アメリカでは博物館、美術館は小中学生に占領されてしまいました。引率の先生の後ろをゾロゾロと子供たちが付いて回り、これも必ず異常に大きな声を出す先生が、解説書を読むようにありきたりの説明をしているのです。

もう数年以上前になりますが、日本でユトリロ展を観に行ったことがあります。生涯貧乏だったユトリロは、絵の具やキャンバスを買うお金に苦労していたせいなのか、彼の作品は小さなものがほとんどです。その展覧会にラッシュアワーの新宿みたいに押すな、押すなの行列で絵を観なければならず、とても閉口しました。

少し距離を置いて遠くから観るとか筆のタッチを絵に顔を寄せて観ることなど想像外のことでした。もう日本で特別展に行くのはコリゴリというのが本音です。それに、京都のお寺の拝観料並みに結構な入場料を取られるのも納得できません。

ベルリンで偶然、フリーダ展に出くわしたことがあり、彼女の作品を大量に観ることができました。長期間展示するせいもあるでしょうけど、広々とした会場でゆっくり作品を観ることができました。日本で同じ展覧会を開いたら、連日満員になり、ギュウギュウ詰めになるのかな~と思わずにいられませんでした。

パリで 『パレ・ド・トーキョー(Palais de Tokyo)*展』 が開かれ、その何日間だけパリ自然主義者協会(Paris Naturist Association)が主催し、入場者は靴以外真っ裸で鑑賞しなければならないという企画がありました。ガイド役のおばさんも、全員が裸です。当初、100人から200人程度の入場者があれば良いと見込んでいたそうですが、期間中3,000人もの裸の入場者があったと報じられています。

「裸で観ると、どこかスンナリと作品の良さが身に入る」と、主催を喜ばせるようなコメントをしている人もいましたが、「裸の日にはもう少し空調の温度を上げてほしい、寒かった」と、現実的な要求をしている人もいました。入場者の全員といって良いでしょうか(少なくともアンケートに答えた人たち)、裸でいることに何の抵抗もなく、まるで混浴のお風呂屋さんに行くような気軽な気持ちで美術館を楽しんだ…ようなのです。入場者の男女の比率は半々でした。

ここで私の提案ですが、東京で『西欧、裸婦名作展』を裸で観る展覧会を開いてはどうでしょうか。中世になって、キリスト教、カソリックの締め付けが始まる以前と、ルネッサンス以降は西欧絵画はおおらかな裸オンパレードでした。そんなおおらかさを味わうには、観る方も裸で…という趣向です。これは絶対にウケると思いますよ。

でも、他の絵画展同様に、ラッシュアワーの通勤電車のようなギュウギュウ詰めになってしまっては、イロイロ問題があるかもしれませんね…。 

-…つづく

 

*パレ・ド・トーキョー(Palais de Tokyo):正式名称「パレ・ド・トーキョー / 現代創造サイト」(Palais de Tokyo / Site de création contemporaine)。フランス、パリ16区(セーヌ川右岸)にある美術館。コンテンポラリー・アートが中心であり、絵画・彫刻・インスタレーション・デザイン・ファッション・ビデオアート・映画・文学・コンテンポラリー・ダンスなどの展示・上演が行われている。(Wikipediaより抜粋)

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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