第567回:歯並びは人の品格を表す
ウチの旦那さんの歯並びは酷いもので、「オレのは、乱杭歯というのだゾ」と、なんだか自慢げに教えてくれましたが、あれでよくモノを噛めるものだと呆れるほどです。前歯が乱杭なら、奥の方はキンキンキラキラで、日本の歯医者さんの器用さと執念と技術の高さのほどを伺わせます。
彼の同級生も皆大なり小なり、スザマジイ歯並びで、おまけにタバコのヤニ、味噌っ歯です。これはきっと年代や時代的なものなのでしょう。ダンナさんに言わせれば、「歯で齧る食べ物さえない時代に育っているからなぁ、ともかく胃袋に詰め込むことが先決で、入り口のことなんぞ構っちゃいられない時代だったからだ」ということになります。
確かに、若い世代(ダンナさんに比べてのことですが)の日本人は歯も白く、歯並びも綺麗になってきたようです。古い映画、30-40年前の作品を観ていて、ヨーロッパ人、オーストラリア人、ニュージーランド人とアメリカ人は、すぐに見分けられます。ウチのダンナさんほどではありませんが、アメリカ人以外の俳優さん、女優も男優も歯並びが悪く、色も自然と言われるとそう言えなくもありませんが、ともかく汚れたような色、味噌っ歯だからです。
アメリカでは当たり前になっている歯の矯正は、お金も時間もかかります。私たち4人兄弟は、お父さんの中学校の教員給与でよくぞ全員の歯を矯正できたものだと、今になってとても感謝しています。家庭にとって大変な負担になったことでしょう。アメリカでは、全般的に子供の歯並びは親の責任…といった感覚があり、歯並びはその子の将来を大きく左右すると信じています。人と接する仕事に就く時、乱食いの味噌っ歯では、相当マイナス要素になりますし、歯は教養の高さのバロメーターと呼んで差し支えないほどです。
私の大学の先生たちは、一様に綺麗な歯をしていますが、ここ高原台地の牧場主、牧童たちは揃いもそろって酷い歯並びです。おまけに、牧童たちは火を使わないチューイングタバコ(野球の選手がペッペと汚い唾を吐く、あのタバコです)を齧っていますから、味噌っ歯以上のタバコヤニ歯なのです。
ダンナさん、「俺なら、即牧童仲間に入れるな」と言っていますが、先日、牧童の春の仕事の一つに羊の睾丸を抜く作業があり、それを未だに口と歯でやると聞いてから、何でも体験したがる傾向のあるダンナさんでも、「オレにもやらせろ…」とは言い出さず、静かになりました。
最近、日本の若者も歯並びが著しく良くなってきたように見受けられます。とても良いことです。ところが、アメリカではトウモロコシのように歯並びが良いだけでなく、真っ白く脱色するのが流行り出し、ベージュがかった自然の色はいくら綺麗に並んでいても、お手入れが足りないとみなされるようになってきたのです。確かに、映画スターをはじめ、テレビのニュースキャスター、お天気キャスター、コマーシャルに出てくるその他大勢、皆が皆、真っ白の歯をしているのです。
またまたダンナさん、「ありゃ、便所のタイルだな…」とやっかみを言っています。でも、ウチのダンナさんのような乱食い歯のうえ、奥の方がキンキンキラキラでは、テレビタレントはもとより地方の政治家にもなれないでしょう。政治家もニッコリと笑い、白い歯を見せたポスターで選挙人アピールしなければならず、演説の際も、汚い歯並びでは人に不快感を与えかねませんから、まずは落選確実でしょう。
ダンナさんは、「オレ、初めからそんな軽薄なテレビタレントとか、アホな政治に関わるつもりはないから、このままで十分だよ」と言っています。
それにしても、“歯は口ほどにモノを言う”のがアメリカなのです。
-…つづく
第568回:アメリカ異人種間結婚事情
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