第573回:火気厳禁~異常乾燥の夏
全米山火事地図(https://www.fireweatheravalanche.org/ とhttps://fsapps.nwcg.gov/)というWebサイトがあります。それを覗くと、現時点で、アメリカのどこでどのような山火事がどうのような規模で発生し、燃えているかを知ることができます。恐ろしいことに、中西部のすべての州で、大きなもの小さいものも含め、火事が発生しているのです。
もう、カルフォルニアの山火事が郊外の団地に迫ってきたくらいではニュースになりません。少なくとも千軒単位の家が燃えなくてはニュースバリューがないのでしょうね。
私たちの住んでいる高原台地も異常乾燥で、町へ降りる途中にある、牧草畑も川の水が枯れ、スプリンクラー(大型の散水システム)を動かすことができませんので、いつもは緑の谷と呼んでいるところは、改名して茶色の谷になってしまいました。牧場主やお百姓さんにとって、実に深刻な問題になっています。
例年ですと、上から見ると、灌漑用水が行き渡っている地域は真緑、灌漑の恩恵に与かることのできない土地はベージュの乾燥し切った砂漠のはずれのように色合いで、くっきりと線を引いたように見分けられるのですが、今年は境界線が分からないくらい、どこもかしこもベージュに乾燥しているのです。
灌漑用水の供給源であるコロラド川、ガニソン川の水位も何十年に一度の最低レベルで、町に入る手前の橋の上から見ただけでも、水量の多いコロラド川が川幅を狭め、今まで見たことがない川底をのぞかせています。
先週、ロッキー山系にキャンプに行った時、途中にある大きなブルーレイクの水位が8~10メートルくらい低くなり、湖の真ん中に今まで見たことがない島が現れていました。
ユタ、アリゾナ、ネバダ、コロラド州の人たちが水と戯れることができる広大なレイク・パウエル、レイク・ミードは、例年の47%の水しかなく、本来ならブイに係留して、気持ち良さそうに浮いているはずのボートが剥き出しになり、乾きヒビ割れた湖底にゴロゴロ転がっているのです。
コロラド川はミシシッピー川やガンジス川など、他の大河が支流を集めて河口にデルタを作り、海に流れ込むのとは正反対に、海まで届く水は一滴もない有り様です。流域にある巨大な町ラスベガスが、コロラド川の水を水源として水道水に使っていることが一番の原因ですが、流域にある農地、牧場が争うように川の水を使い切り、メキシコ領のカリフォルニア湾に届く前に枯れてしまうのです。
私たちの町だけでなく、中西部の街では、“庭に水を撒くな!”と、節水令を出しています。そうなると、町中での火災の危険が増します。アメリカで一番大きな夏のイベント、独立記念日の花火大会は中西部で軒並み中止になりました。庭先でする花火も禁止です。自分の家の裏庭で、ゴミを燃やしていたお爺さんが逮捕されたりしています。
いつもなら、コロラド晴れと呼んでいる、抜けるような青空が広がっているはずなのですが、このところ、晴れていても薄茶色のカーテンで空全体を覆ったような重苦しい空気に包まれ、水平線に見えるはずのブック・クリフ、グランド・メッサも茶色の煙に隠されて見えません。隣の州の山火事の煙が流れてきて、ロッキー山脈にぶつかり、ここで澱んでいるからです。
コロラド州内でも山火事の記録が残っている歴史で最大の面積が、今現在燃えています。6ヵ所同時に山火事が発生し、近いところではアスペンに行く途中の山々、南にほんの百数十マイル下ったデュランゴの街の北の山と、山火事が発生しました。こちらに迫ってきた時に何を持ち出し、どちらの方へ逃げるかが近所の人たちとの話題になってきました。
消防署が飛ばす、消化剤をバラマク飛行機、ヘリコプターのパイロットがインタヴューで、「一旦広がってしまった山火事にこんなことは気休めでしかない。すざまじく燃え盛る山火事を消し止めることができるのは、自然の力、雨だけだ…」とコメントしていました。
どうせ、気休めなら、アメリカインディアンのシャーマンを呼んで雨乞いの儀式とお祈りをしてもらうのが良いと思うのですが、どうでしょうか…。日本でも“苦しい時の神頼み”と言うではありませんか。
-…つづく
第574回:AIの進化はどこまで行くの?
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