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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第566回:卒業と就職の季節

更新日2018/06/14



5月、6月は、アメリカの卒業式の季節、そして就職の季節です。
日本とアメリカの大学の卒業式の違いは、日本なら、「仰げば尊し……」を歌い、泣く泣く学生生活、先生、友達に別れを告げるセイシュク(静粛)、ゲンシュク(厳粛)な儀式なのに対し、アメリカの場合、フットボールスタジアムで風船を飛ばし、ドンチャン騒ぎの末、最後にソーレッとばかりに学士帽(四角い平らなお皿みたいなものに房が下がっています)を空中に投げ上げる、陽気というのか、バカ騒ぎ好きというだけなのか、ともかく派手派手なものです。

もう一つ大きな違いは、日本で大学を卒業する学生さんのほとんど、少しばかり名の通った良い大学なら90%以上(今年は98%の卒業生の就職が内定しています)の学生さんは、卒業する時、すでに就職が決まっているのに対し、アメリカの卒業生はほとんど全く就職が決まっていないことでしょう。

何でも、日本の大学では“就職率”が大きなセールスポイントで、あそこの大学の何科を出たら、一流企業に就職できるというのが、大学を選ぶ時の重要な要素だと聞いています。それに各大学に就職を斡旋する“課”があり、1年以上も前から求人広告を張り出し、学生さんにそれこそ、真剣に一生懸命就職の世話をする…そうですよね。

アメリカの大学には、そのような就職の世話をする専門の“課”というのは全くありません。大学生は各自、自分で職を探し、自分で応募し、願書を送り、それが受け入れられれば面接に出かけます。アメリカの企業は、新入社員一斉募集、一斉入社試験というようなことは一切やりません。

卒業と同時に、自分を売り込む個人プレーをしなければならないのです。“自分をいかに売り込む”かが最も大切で、それだけが鍵であるアメリカ社会で生きていくには、“売り込み”が必要不可欠なことなのです。

大学では、願書の書き方、自分の売り込み方、また面接でどのような態度で臨むかなどなどの簡単なトレーニングを受けることはできます。後は、大学での成績が大きくモノをいいます。そして、教授たちが書く推薦状があります。これは私もたくさん書かされます。

この推薦状の効果はアテにはなりません。あまり優秀でない生徒さん、どちらかといえば怠けモノの生徒さんにも、悪いことは全く書かないからです。成績のことにはあまり触れずに、協調性があるとか(授業中クラスメイトとおしゃべりばかりしている)、コツコツと努力型(頭の回転が人よりイチジルシク遅い)、温厚な性格(ボケーッとニコニコしているが、人の話をよく理解できていない)、正直である(よく欠席し、レポートを期限どおりに出さず、こちらが恥ずかしくなるような個人的な言い訳を延々とする)とか、すべてほめ言葉で埋めます。私なりに苦労しているのです。

学生さんが就職先を探す手段として、最近、インターネットに頼ることが多くなりました。自分の専門分野の求人は、専門の雑誌、新聞より先にまずインターネットに載りますから、マメに求人広告をチェックし、いち早く応募するのが大切です。 

もう一つ、就職見本市(Job Fair)、求人一斉展覧会が、学内で年に2回開かれます。学生新聞によると、この春の就職見本市には200社あまり出展し、各企業の人事課の人が優秀な人材を求め、会社の説明、将来性、もちろん給料などなど、美味しそうな話を持ち掛けています。そこに陸軍、海軍、空軍、海兵隊などの求人ブースも出ます。

圧倒的に理工科系の会社が多く、それに医療、薬品関係、そしてビジネス専攻の学生さん向けの、銀行、保険会社、マーケティングが続くでしょうか。私の専門の言語学を専攻する学生向けの就職は全くありませんでした。

この傾向は、英文学科、英語学科全体に言えることで、全米に毎年何十万人と出る英語関係の卒業生の就職など、中学、高校で国語(英語)の先生になるか、私のようにシツコク大学に残り、学位を取って大学の先生なるしか使い道がないのです。

企業の方も、どこそこの大学の何科を卒業したなら即戦力として使える…すぐに会社で働けることを見込んでいます。ですから、新入社員揃っての入社式、社長の訓辞などをハイチョウ(拝聴)させられることはなく、新入社員のトレーニング、教育なんてことも全くしません。

大きな優良企業に就職しようとするなら、コネがモノをいいます。いくら実力社会だとは言っても、スタート時点で差が付いてしまうのです。日本の学閥とは少し違いますが、大きな大学にある、セロリティー、フォルタニティーと呼ばれているギリシャ文字を並べた学生エリート組合(同好クラブ?)に所属していたとかもコネ、ヒキになります。親類縁者は最も有力なコネになりますし、マジメに教会に通っているなら、宗教もツテになります。

とても良い会社入ったからといって安心できないのがアメリカです。クビを切るのがとても簡単で、10日前に通達すればよいだけなのです。1月分の給料を貰い、“ハイ、さようなら…”となります。ダンボール箱に自分の私物をガサガサと入れて運び出し、会社を出て行く様子はアメリカの映画に出てくる通りなのです。西部劇ならシェリフの星のバッチをポイと机に投げ捨てる場面です。
「こんなに簡単にクビを切れるんじゃ、アメリカは資本家天国だなぁ」とは、ウチの仙人の弁です。

定年まで永久就職など存在しない社会に放り出される今年の卒業生、たくましく生きていって欲しいものだと願わずにはいられません。

-…つづく

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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