第593回:Only in America ~アメリカならではのこと
クリスマスとお正月を実家のあるカンサスシティーで過ごし、帰ってきました。インターステイトハイウェイ70号を2,000Km、途中のロッキー山脈越えやデンバー、カンサスシティーの都会の混雑を除けば、長く退屈なドライブです。
州や自治体によって規制されている区間もありますが、ハイウェイ沿いに実にたくさんの立て看板が目に付きます。ほとんどが次の町、インターチェンジのホテル、レストラン、田舎の博物館の宣伝です。
なかにはユニークな看板もあります。“世界で一番大きなプレーリードッグを是非観よ!”、プレーリードッグはせいぜい15センチほどの大きさのリスのような動物ですが、“キャーン、キャーン”という鳴き声が犬に似ているところから“平原の犬”プレーリードッグと名付けられています。
全長10メートルのプレーリードッグとあり、そんな巨大なモノがいる訳がない…と思って、昔、その町でハイウェイを降りて、観に行ったところ、いかにも素人の牧場主がいたずらで作った巨大なセメント製のものでした。しかし、よくぞそんな膨大な手間隙をかけたジョーダンをわざわざヤルもんだ、と感心したものです。
中西部最大と唄ったアダルト・セックス・ショップの大看板も数箇所あります。そして、そのすぐ脇に“神様はいつも貴方を見つめています”という宗教団体の宣伝が設置されていたりで、結構賑やかなのです。
何にでも興味を示すダンナさん、仙人らしくもなくストリップショーの大きな看板に目を留め、スターダンサーの名前、ストーミー・ダニエルズ(Stormy Daniels)って誰だと私に訊くのです。彼女はトランプ大統領とセックス・スキャンダルを起こしたポルノ女優で、こんなカンサス州の田舎町まで来てストリップショーをやっていたのです。
知名度抜群、まさに時の人ですから、集客力を見込んでプロモーターが動いたのでしょう。ツアーの名前はトランプ大統領のキャッチフレーズ“Make America Great Again”(偉大なアメリカをもう一度作り上げよう)をもじった”Make America Horney Again”(スラングなので、どうも訳するのが難しいですが、アメリカをもう一度勃起させよう…ということになるのでしょうか…)。
ドサ回りのショーかと思ってインターネットで覗いてみたところ、なんとシカゴをはじめ大都会から南部の小さな町まで満遍なくツアーしており、2019年ツアー日程まで載っていました。まるで往年のローリング・ストーンズやプレスリー・オン・ツアーのようなのです。勿論、オンラインで入場券を購入できますし、早めに良い席を確保するように呼び掛けています。それぞれの地方の新聞記事でもヤンヤの大好評、スシ詰め満員御礼だったとトピックスに書かれています。
このストーミー・ダニエルズ嬢、出演したポルノ映画が150本とありますから、相当な人気女優だったのでしょうか、巨大と言うべきか、とてつもない大きさのオッパイの持ち主で、39歳になった今でも、万有引力の法則に抵抗してそれはそれは立派なものです。
旦那さん、「そこまでやるんなら、トランプ大統領のソックリさんを使って、本格的ポルノとは言わないけど、コミック調にトランプのソックリさん役をコテンパンにやつけるショーにすれば、もっとウケルと思うけどな~」と、そのアイディアを売り込み兼ねないほどの意気込みです。
アメリカの政界では、セックス・スキャンダルは命取りになり得ないことは、ケネディー大統領とマリリン・モンロー、クリントン大統領とモニカ・ルインスキー、もっとも尊敬され、優れた大統領との評判の高いフランクリン・ルーズベルトもルーシー・ページ・マーサー・ラザーフォードという愛人がいたくらいですから、愛人を持つとか浮気をするのはお国自慢にこそなりませんが、素直に認めてしまえば、許され、忘れられる傾向があります。
そりゃ奥さんである大統領夫人、ファーストレディーが、ダンナを許すかどうかは別の問題でしょうけど。最初にファーストレディーとして社会の前面に出てきたアナ・エレノア・ルーズベルトは、ダンナさんのフランクリン・ルーズベルトが自分よりルーシー嬢と一緒に過ごすことがズーッと多く、自分とはほとんど別居状態でいることを認めていましたし、ジャックリーン・ケネディーも、夫のジョン・F・ケネディーの女遊び、漁りを見て見ぬふりをしていたようです。
ヨーロッパの王族、貴族、強いてはローマ法王、枢機卿まで、ヤンゴトナキ風情の人は、当然の権利のように愛人、恋人を持っていたようですから、なにもアメリカの大統領だけのことではなさそうですが…。
トランプ大統領とストーミー・ダニエルズ嬢が口汚いスキャンダルに発展したのは、トランプ大統領が13万ドル(1,500万円相当)を弁護士を通じて、今後一切口外するなと口止め料としてダニエルズ嬢に支払っていたからです。それを大統領が、「オレの弁護士が勝手にやったことで、オレは口止めした覚えなんかない…」とシラを切り、それが真っ赤な嘘と判明してしまったことが火に油を注ぐ結果になりました。
セックス・スキャンダルの伝統があるアメリカ大統領としてのトランプにとって、ダニエルズ嬢とのお遊びなど取るに足りない小さなことでしょうし、ダニエルズ嬢のことなど、世間はすぐにも忘れてしまい、時間が醜聞を消し去ってしまうことでしょう。
もう若くはないダニエルズ嬢としては、今のうちにドサ回りでも何でもして稼ぐだけ稼いでおくのが賢明でしょうね。
がんばれ、ダニエルズさん!
-…つづく
第594回:移民は国を動かす ~無意味な鉄の塀
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