第651回:国際的広がりをみせてきた映画界
韓国映画『パラサイト』(Parasite;邦題「半地下の家族」)がハリウッドのアカデミー、オスカー作品賞を獲得し話題になりました。『パラサイト』はすでにカンヌ映画際でグランプリを貰っていましたが、ハリウッド主体の映画界で、しかも外国語、それも耳に少しは馴染んだフランス語、イタリア語、スペイン語などの西欧言語ではなく、韓国語の映画が外国映画賞ではなく、メインの作品賞、監督賞を取ったのですから、映画界に相当なショックを与えました。
何にでも口を出すトランプ大統領まで、異議申し立てとまではいきませんが、愚痴をこぼし、アメリカの映画産業はどうなっているんだ、アメリカ製の良い映画があるはずだ…と、トンチンカンなコメントをしたくらいです。
日本アカデミー主演女優賞は、韓国人、シム・ウンギョンさんが貰いました。日本映画『新聞記者』の主役を演じてのことです。
政治や経済の軋轢を尻目に、映画界に国境がなくなってきています。
インドのボンベイ(ムンバイ)を“ボリウッド”と呼んでいることは、広く知られています。このボリウッドの映画産業は大変な勢いで伸び、2017年には1,986本の映画が撮影されています。私たちが住んでいるコロラド州の田舎町の図書館でさえヒンディーシネマのセクションがあり、ボリウッド映画のDVDを借りることができます。やはり流行るのはハリウッド映画と同じで、最後にインド的ディスコ音楽にのって全員踊りまくる大演壇、ハッピーエンドで幕を閉じるモノがほとんどです。
もし、“ノリウッド”(Nollywood)のことを知っていたら、あなたはちょっとした映画通といってよいでしょう。ノリウッドはナイジェリアで製作、撮影された映画のことで、2002年に始まり、アレヨという間にナイジェリアだけでなく、近隣のアフリカ諸国、ヨーロッパ(アフリカ系の移民が多い)に広がりました。
ノリウッドの映画は最初から劇場で上映することを考えておらず、もっぱらストリーミング、インターネット配信とDVD販売を狙っています。その最たる火付け役が“ネットフリックス”(Netflix)で、ネットフリックスが製作し、配信している作品が多いのです。
アメリカのほとんどど真ん中の山里に住む私たちのところに、テレビ、インターネットの電波が届かないのに、ナイジェリアでは、電波が全土を網羅しているというのですから、驚きです。そして、大変な勢いで周辺の国々にも広がっていると言います。
ナイジェリアの公用語は英語ですが、これはお役所やエリートの人たちの間でのことで、300からの言語が使われています。サンダンス映画祭に出品されたナイジェリア映画『THE BOY WHO HARNESSED THE WIND』(邦題:「風を捕まえた少年」;キウェテル・イジョフォー監督=Chiwetel Ejiofor)は話題になりました。この映画でも舞台になり、撮影されたマラウイ(Malawi)地方の言葉、チチェワ語(Chichewa)が使われています。どこの国、どんなところにも名優と呼びたくなる俳優がいるモンですね。
昔、カリブ海をセーリングしていた時、セント・キッツ(Saint Kitts)という小さな島で偶然からその島のアマチア演劇を観たことがあります。訛りの強いその島の英語を使っていて、セリフはほとんど聞き取れないし、意味も半分くらいしか捕まえることができませんでしたが、俳優さんたちの演技を通じて彼らの熱気が感じられ、感動したのを覚えています。
ナイジェリアのノリウッドではネットフリックスの肩入れもあり、昨年700本の映画が作られました。当初、ノリウッドの映画はナイジェリアの外にマーケットはない、多くの人口を抱えるインド、ボリウッドには成り得ないとみなされていました。ところが、ストリーミングという配信システムが旧態依然とした劇場、ロードショウを凌駕してきたのです。ナイジェリアでは『iROKO TV』が主体になり配信を始め、最近では南ア連邦の巨大チンャネル、『MultiChoice』がストリーミング配信をケーブルTVで始めました。
日本映画がヨーロッパやアメリカで高く評価され、アニメ、マンガが国際語になり、韓国映画が米国アカデミー賞を獲得したように、ノリウッド映画もナイジェリアを飛び出して、国際的な賞を貰う日が来ることを疑いません。
是非、ノリウッド映画をご覧ください。ヒューマンドラマは人類共通のものですし、お金をかけずにこんなに素晴らしい映画を作ることができるんだ…と感嘆するすることでしょう。
-…つづく
第652回:笑う家には福がくる
|