第618回:天井知らずのプロスポーツ契約金
私はアメリカのプロスポーツに全く興味を持っていません。それどころか、オリンピックでさえテレビで観戦した記憶がありません。日本に客員教授として1年間住んだ時だけ、相撲がテレビで始まると、午後3時の序二段から結びの一番まで齧り付くように観ていましたから、元々鍛えられた肉体がぶつかり合うような競技が好きなのかもしれません。でも、お相撲にはスポーツと言えない部分があり、他のスポーツと同じように論じることはできない…と思い込んでいるのは、ただ単に私がお相撲好きだからでしょうか…。
他のスポーツでは、ダンナさんに引きずられるようにアメリカズカップ(ヨットレースです)を彼の半可通の解説を聞きながらテレビで観るくらいのものです。ウチのダンナさん、ヨット、ボートのことなら何でも来い、一家言を持っていて、ボートショーなどに付いて行くと、本人が一生どころか5、6回生きても到底手の届かない超豪華な船を仔細に眺め、メーカーから派遣されている人にナニやらもっともらしい観点から質問したり、冗談を交わしたり話し込んでいるのです。どうやら、御本人が乗ったこともないウルトラ豪華ヨット、ボートのボートショー的知識だけはあるらしいのです。造船所、メーカーも彼の元にカタログや企画中の船の情報などを送ってきます。
今時、そんな100億円を超す超豪華ボートを持てるのはアラブのオイルマネーをフンダンに持っており、使い道に困っている、かの国王族だけと思っていたところ、最近、250ミリオンドル(280億円相当)の、アメリカンフットボールフィールドより大きい(長い)ヘリポートが二つあるボート?…船を買ったアメリカ人がいるゾ、とダンナさんが教えてくれました。
その記事によると、アメリカンフットボールのチーム、“ダラス・カウボーイ”のオーナー、ジェリー・ジョーンズ(Jerry Jones)が購入したものです。
今年の1月に“レッド・スキンズ”のオーナー、ダニエル・シュナイダー(Daniel Snyder)が100ミリオンドル(110億円相当)のヨットを買い、話題になりました。と言うのは、その船の中にフルサイズのアイマックス(Imax)劇場を設置したからです。俺も負けてはいられないとばかり、“アトランタ・ファルコーン”の持ち主アーサー・ブランク(Arthur Blank)も180ミリオンドル(200億円くらいかしら)かけて、壮大な宴会、パーティーができるゴールデン・ダイニングルームを備えた船を造りました。“ダラス・カウボーイ”のオーナーはその更に上を行く船を買ったのです。
チームのオーナーたちが遊びにこれだけ巨額を費やしているのですから、そのチームの選手たちもお金に糸目を付けずと言いたくなるような金額でトレードしています。大谷君(いつもならサン付けで呼ぶのですが、私の孫くらいの歳なので、それに彼、とても可愛らしいのでクンになってしまいました)のいるエンジェルスの主砲、マイク・トラウト(Mike Trout)は427ミリヨンドル(470億円)で12年契約をしました。今までの記録はフィラデルフィア・フィリーズのブライス・ハーパー(Bryce Harper)の330ミリヨンドル(360億円)が13年契約をしています。もちろんこれらは契約金だけの話で、他にスポーツ用品、靴、スポーツウェア、車、清涼飲料水などなどのスポンサーから契約金と同じくらいか、それ以上のお金が入っていきます。
アメリカの4大スポーツ、野球、アメリカンフットボール、バスケット、アイスホッケーの花形選手たちの年収はウナギのぼり状態です。たとえ控えの選手でも同様で、アメフトのチェイス・ダニエル(Chase Daniel)は9年間に出場したのはたったの4試合でしたが、その間28.3ミリヨンドル(31億円)を稼いでいます。
なんだか真面目に働いているのがバカらしくなります。いつから、どうしてこんなことになってきたのか、少し調べてみたところ、(教授職というのはシツコサが身上なのです)1950年代の野球の選手、ドジャーズの外野手だったカール・フリージョ(Carl Furillo)は、オフシーズンにDELI(デリ;お持ち帰り向け簡易食堂兼食品店)で働いていたし、1960年代の名アメフト・ランニングバック、ジム・ブラウン(Jim Brown;彼はアメフトのホール・オブ・フェーム、殿堂入りしているほどですが…)はオフシーズンにペプシコーラのセールマンをやっていました。名投手、ボルティモアのジム・パルマー(Jim Palmer;1966年のワールドシリーズでドジャーズをシャット・オフした)は冬場、週給150ドルで衣料品店で働いていました。
急激にプロスポーツが儲かるショーバイになり、オーナーと選手に大金が転がり込むようになったのはテレビの実況中継が始まってからです。1961年のアメフトのテレビの放映権をCBS一社が取りましたが、4.65ミリヨンドル(現在のレートで5億1,000万円)でしたから、まだ微々たるものでした。それが今では4大チャンネル、ABC、CBS、NBC、FOX、それにスポーツ専門のESPNが毎年総計3ビリヨンドル(3,300億円)支払っています。その他、6万人から9万人も入る巨大スタジアムからの入場料があります。
ですから、チームのオーナーも選手もとんでもないお金を享受できることになったようなのです。歯に衣着せず言いたい放題コメントする元バスケットのチャーリー・バークリー(Chary Barkley;NBAのMVP最優秀選手になった)は、「彼らは年に7ヵ月働くだけで20、30、40ミリヨンドル稼ぎ、最高級のホテルに泊まり歩き、贅沢三昧しているのだ。彼らは完全にサギ師だ…」とまで言っています。付け加えて、「学校の教師、実戦に携わる軍人、看護婦らは(給料を)もっともっと貰うべき仕事だ。と言っても、自分もスポーツ企業の下で生きてきたことは認めなければならないが…」と言っています。ちなみに高校の先生の全米平均給料は、年間6万ドル(660万円)です。
最近、日系の選手がプロスポーツの世界にドンドン入ってくるようになりました。大坂ナオミさん(お父さんはハイチ人)、大谷君、そして初めてNBAのドラフトで“ワシントン・ウイザース”に入ることになった八村塁君(お父さんはベナン人)、良いエージエントを捕まえて、巨額の契約金をもぎ取ってください。アメリカのプロスポーツ界には唸るほどお金があるのですから…。
「そして、そこから少しでも教育関係に回してください!」と、どうにも結論はいつも自分が身を置いている教育に絡んでしまいました。
-…つづく
第619回:私は神だ、キリストの再来だ!
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