第625回:セクハラ、強姦、少女売春、人身売買
どうにも、暗いタイトルになってしまいました…。
アメリカのお茶の間で家族全員で楽しめるテレビ番組の人気ナンバーワンを続けていたビル・コスビー(Bill Cosby)が何十人もの女性にセクハラを働いていたとして、逮捕され実刑判決を受け、ハリウッドで大物プロデューサーと言われていたハーヴェイ・ワインスタイン(Harvey Weinstein)も多くの女優さんに訴えられ、世はまさにセクハラ全盛の様相を呈してきました。
そこへ、今度はオペラ界の重鎮プラシド・ドミンゴ(Plácido Domingo)を、7人の女性(今のところですが…)がセクハラで訴えました。実力、才能のあるなしが割りにハッキリしている…と思っていたクラシック音楽界もハリウッド的になってきたのでしょうか、それともあまりに長い間、オペラ、サルスエラ(スペイン式ミュージカル)、指揮者としてクラシック音楽界に重鎮として居座り続けたプラシド・ドミンゴだけなのでしょうか。セクハラを継続的に受けた女性は、「誰が神に“ノー”と言えるものですか…」と、プラシド・ドミンゴがクラシック音楽界、オペラ界の神であったことをホノメカシテいます。
ハリウッドの大物プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインは、ミラマックス・プロダクションを設立して良い映画をたくさん製作してきましたが、昨年、“ミーツー運動(me too;私もそのような目に遭ってきた)”で、続々と彼の被害に遭った女優さんが名乗り出てきました。女優さんにとっては自分のイメージを崩してしまう強姦被害者として訴え出ることはとても大変なことだろうと想像できます。
アメリカテレビ業界の4大チャンネルの一つ、フォックスのディレクターも、女性ニュースキャスターに訴えられています。
こんなニュースが流れるたびに、必ず“そんなことが起こった時に、何故その場で抵抗し、あるいは警察に訴えて出なかったのか、本人が享受するであろう”得“を勘定に入れ合意した、職場上の和姦(日本語にはこんな便利な言葉があるんですね…)ではなかったか?”という論評が聞かれたり、書かれたりします。
確かに20年前に受けたセクハラを今になって…という感は残りますが、その当時、実権を握っていた男どもの下で、彼女のシゴト上の上役や神を訴えることは、自分のシゴトを捨て、将来を潰す覚悟がなければできませんでした。社会的状況がまるで違ってきたのです。その意味でも、被害者の女性が名乗り出てこられるような環境を徐々に築き上げてきた“me too運動”は大きな役割を果たしていると思うのです。
ところが、以前このコラム(第621回:現在も続く人身売買と性奴隷)で取り上げたジェフリー・エプスタイン(Jeffrey Epstein)の場合は、相当数の少女を人身売買のように売り買いしているのです。エプスタインが適齢以下の少女の売春、人身売買の罪に問われたのは2008年のことです。それを何とか18ヵ月の刑、しかも昼間、“仕事のため”自宅、事務所に帰ることが許されるという、刑務所には寝に帰るだけという、信じられない判決を受けました。
しかし、その後、調べが進むに従って、少女たちの人身売買に絡む輪が広がり、アメフトチームのオーナーや選手などエプスタイン・ハーレムに何度も招待され、滞在していたのは、さもアリナンと、特別驚きませんでしたが、彼が持っているプライベート・ジェット機に何度も乗っている元大統領のクリントン、現大統領のトランプ、それにイギリス王室のチャールズ皇太子の弟であるアンドリュー王子(ヨーク公爵)と、政界、セレブ、投機家など、そうそうたる人物がエプスタインのジェット機で旅行し、フロリダ、ヴァージン諸島(彼は島一つを個人所有していました)、アリゾナの豪邸に滞在しているのことが分かってきました。
ジェフリー・エプスタインは再逮捕されました。
セックス・スキャンダルに甘く、慣れているはずのイギリス王室ですが、アンドリュー王子がエプスタイン・ハーレムに滞在していたことを必死になって否定しています。ところが、現代の壁に耳アリ、障子に目アリ、人のいるところにスマホありで、エプスタインが犠牲者のあどけない少女を連れて彼の邸宅から出てきた時、ドアの隙間に少女を送り出すアンドリュー王子らしき人物がバッチリ映っていたのです。
もし、エプスタインが“衝撃の全面告白”でもしたら、政界、財界、セレブに大恐慌を引き起こすことでしょう。彼が一人で少女たちを買い、飼い馴らし、管理できるわけがありません。大きな組織があることは確実と見られていました。そして、彼に擦寄り、美味しい分け前を享楽していた人の名前がリストアップされるのでは…と戦々恐々だった有名人がたくさんいると想像されます。
ところが、エプスタインは勾留施設(NYメトロポリタン矯正センター)で死んでしまいました。彼の死には不明なところが多いのです。自殺の可能性がある裁判進行中の未決囚は、特別監視が就くことになっているのですが、おまけに彼は2週間前にも自殺を試みているのですから、最大の監視があって当然のはずでしたが、“監視官が交代するスキを狙って”自殺した…と拘置所は言い訳しています。
それに加え、通常なら即、死因解明のため司法解剖が行なわれますが、死後1週間経ってもまだ司法解剖の結果が報告されていません。こんなに時間が掛かるのは不自然ですから、当然、誰かに殺されたのではないか…という疑惑が沸き起こってきます。『マイアミ・ヘラルド』紙は、“トランプ大統領は彼自身の立場を危うくする、危険なゲームを行なっている”とさえ書いています。
少女の供給源として、ギレイン・マックスウェル(Ghislaine Maxwell)という女性が浮かび上がってきました(彼女の父親はイギリス出版界の大御所で、4千億円相当の負債を遺し死亡している)。彼女がエプスタインへ少女を供給する組織の元締めであり、第一容疑者(他に幾人も少女の供給源があったようですが…)で、彼女が少女たちに性教育というのか、テクニックを調教し、エプスタインに差し出していたというのです。
犠牲者の一人、ヴァージニア・ロバーツ・グイフリー(Virginia Roberts Guiffre)さんはギレインにリクルートされ、調教され、エプスタインをはじめ数多くの男と性交することを強要されたと告白しています。
エプスタインが死んでホッとしている人がたくさんいることでしょう。
私はエプスタインを何とか生かして、男どもが牛耳るアメリカの政界、財界、スポーツ業界のウミを出し切って欲しかったと、心底残念に思っています。
-…つづく
第626回:学期始めのパーティー
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