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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第349回:アメリカの大学強姦事情

更新日2014/02/13



私が働いているコロラドの田舎町の大学構内で強姦事件が起きてしまいました。私の大学は町の真ん中にあり、日本の大学のように塀がキャンパスをぐるりと囲み、門で守衛さんが見張っているようなところではなく、何処からでも、何時でも、誰でもキャンパスに入ることができます。また、どの建物にでも自由に入ることができます。

事件が起こったのは、何時も私が歩いている(路上駐車をして、そこからいくつかの新築したばかりの学生寮の軒先を歩いて抜けているのですが)途中にある学生寮内でのことでした。一応、寮内では、飲酒、タバコ、マリファナ、ドラッグは禁止です。ですが、週末、寮の部屋の中で頻繁に行われる小さなパーティーまでは、とても監視の目は行き届いていません。

今回の強姦事件も、そんなパーティーに学外から紛れ込んだ複数の男性が、酔った女学生を襲ったことのようです。こんな田舎の大学にも、性的な暴行の波が襲ってきたのです。

アメリカの大学で、4年間の大学生活の間に強姦未遂を含め、性的な暴行を受けた経験があると答えた女子大生は20%に及びます。5人に一人が暴行を受けていることになります。

この数字は調査機関によって異なりますが、このような統計上の数字の違いは大学側が非協力的で、我が大学は強姦続出、最も強姦率が高いなどと報告もしないでしょうし、そんな数値は新入生集めに大きく影響しますから、ヒタ隠しに隠そうとするからです。

大学側はきちんと警察に報告しないで済ませようとするのです。大学が一番恐れているのは、そんなニュースが公になり、インターネットなどで『女子学生にとって最も危ない大学ワースト10』などと掲載され、翌年度に新入女学生の応募がなくなることです。

東部のエリート大学であるエール大学では、強姦の被害者である女学生が立ち上がり、大学側の対応を非難したところ、ナントその女学生を"大学の平安を乱した規則違反"で退学処分にしようとしたのです。幸いその女学生、そんな処置にもめげずガンバリ通し、彼女を退学処分にしようとした、学生担当の副学長をクビにまで追い込みました。

全国女子学生性的暴力被害者団体National College Women Sexual Victimization;NCWSV)が1991年に発足し、犠牲者はそこに連絡すると、様々なサポートを受けることができるようになりましたが、事態は年々悪くなる一方です。もう大学の自治とか、州政府の権限(アメリカの大学は有名な私立大学のほかは、ごく少数の陸軍士官学校のような特殊な大学を例外にして、ほとんどが州立大学です)とか言っていられなくなり、オバマ大統領は一挙に合衆国政府レベルで、キャンパス内の性的暴力撲滅に乗り出すと宣言したほどです。それほど目に余る事態になってきたと言ってよいでしょう。

少し古い統計ですが、1885年にケント州立大学で3,187人を対象に行ったアンケート調査では、性的暴力を受けた学生は12.1%でした。それが、2013年では20%と毎年確実に上昇しているのです。

キャンパス内の性的暴行には、際立った特徴があります。街中のバーから出てきたところでとか、町を一人歩きしていたところを襲われたというケースが極めて少なく、90%の被害者は誰が暴力を働いたか、犯人を知っていることです。10人のうち9人は前から知っていた友達、顔見知りにレイプされているのです。

また、大半のケース、100%近くといってよいでしょうか、被害者がドラッグかお酒に酔っ払っている時に強姦されています。そして、一番被害に遭いやすいのは、親元を離れたばかりの新入生、1年目の女学生です。お酒に慣れていない新入生を酔いつぶして、コトに及ぶのが定石のようなのです。逆に言えば、被害者の女子学生がそのような状況に身を置かなければ、避けることができる…とも言えます。でも、どんな状況であれ、レイプはレイプです。

襲う方ですが、男子大学生の7%が性的暴力ふるい、強姦をやったことがあるというのです。ということは、私のクラスに出席している男子学生30名の内2名くらいは強姦犯ということになります。そのうちの6.3%が6回以上の強姦経験豊かな?常習犯なのです。女子学生を狙う強姦は、一度始めるとヤミツキになる傾向があるようなのです。

それにしても、驚くのはキャンパス内で数回も強姦を繰り返しているのに、捕まらず、逆に味をしめてでしょうか、さらに犯罪を重ねている学生が6.3%もいることです。1回目の時に被害者が毅然として訴え出て、大学と警察がきちんと対応していれば、キャンパス内の学生寮に強姦魔を住まわせなくて済み、被害を抑えることができたのに…と思います。

こんなアメリカの大学事情を書くと、日本からの留学生が減ってしまうことになるかもしれませんが、こんなマイナスのイメージを与えるようなことでも、どうしても書かなければならない気持ちになりました。

アメリカの大学では、日本と違った意味での素晴らしい体験ができ、研究成果も挙げることができますし、留学にそれだけの価値があると思います。

こんなアメリカの大学の現状を知ってもらった上でも、沢山の外国人留学生がキャンパスに溢れることを願ってはいるのですが……。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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