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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第347回:またまたのイルカ騒動記

更新日2014/01/30



アメリカの外交官、とりわけ大使は大統領選挙で活躍し、大いに功労のあった人へ見返りの名誉職としてばら撒く傾向があります。早く言えば、それだけ選挙のときに応援し、献金してくれたから、お礼として、お飾り程度の外交官としてカッコウは良いけど、余り中身のない役職を与えるのが習慣化しています。

ですから、往々にして当事国の知識も興味もない、顔が常にアメリカに向いている著しく国際感覚に欠ける大使が量産されることになります。大使職不要論も盛んになりつつあります。国務長官と国際問題分析官だけで充分だ、お役所の海外出先機関としての領事部は必要だが、莫大なお金がかかる大使、大使館など不要だと言うのです。

そんな中で、知名度だけは抜群の元ケネディー大統領の娘キャロライン・ケネディーが、駐日アメリカ大使に任命されました。言ってみれば、親の七光りです。彼女にどれだけ国際感覚があり、政治的手腕があるかは未知数でした。

案の定、普通の外交官なら、そんなことは決して口にしない、暴言を自分のブログに書き込んでしまいました。

追い込みイルカ漁は、日本の、その地方の伝統であり、それをただイルカが可哀想、残酷(に見えるだけなのですが…)だという西欧の安易な動物愛護の立場から批判するという愚かなことをしてしまったのです。これは、サウジアラビアのアメリカ大使が4人の奥さんを持つのは野蛮だと、公に言明するようなもので、そんなことをすれば、大使館は爆弾を仕掛けられかねません。

このキャロライン大使のブログ書き込みは、もちろん英語で、日常のこと、個人的なことを気軽に女子高校生のような調子で書いたものです。お忍びで家族とニセコにスキーに行き、素晴らしい雪質を楽しんだとか、そんなことを書いており、ゴクゴク軽い気持ちで、アメリカに住む家族、親戚、友人たちに、日本でどんな生活をしているか知ってもらおうと、おしゃべりのような調子です。

しかし、彼女はアメリカの駐日大使ですから、言動は公的見解とみなされるのは当然のことでしょう。ブログは誰でも読むことができるオオヤケのものです。その国に何百年と続いた伝統を非難する、従って変えようとするのは大使の仕事ではありません。全く余計なことで、大きなお世話です。

第一、キャロライン大使が生態系を理解しているどころか、興味を持っているとさえ思えません。一つの種を人為的に保護するのがいかに微妙なことであるか、全く考えたこともないのでしょう。イルカだけが特別な動物ではないのは判りきったことです。醜いオニオコゼやチョウチンアンコウと同じ海洋動物なのですから。

私たちが長い間ヨットで暮らしていた時、何度もイルカの群れが帆走するヨットを導くように、伴走するように、何時間も私たちを楽しませてくれました。ほとんど手で触れることができるくらい近くを泳いだりします。一方、イルカの群れが寄ってくると、ヨットの後ろから流しているルアーにカツオやハガツオ、サバなどがかかる可能性がゼロになります。お恐らく、漁師にとって、イルカは海のギャングと言われているトド以上に厄介な生き物であることは想像がつきます。

毎年、世界中の海岸に何百頭、何千頭というイルカが打ち揚げられています。ニュースのトピックスなどで見ると、砂浜に打ち揚げられたイルカが延々と続いてます。聴覚が敏感なイルカが、何かの音でパニックに陥り、正常な判断ができなくなり、集団自殺に走ったのだろうと、生態学の先生たちがコメントしています。その中で一番可能性が強いのは、音波を出し、それが跳ね返ってくる時間で水深を測る測深儀や魚群探知機ではないかと言っています。

私たちが乗っていた小さなヨットにも、そんな測深儀が付いていました。軍艦や潜水艦では、強力な音波を周囲360度、上下にも360度発していますから、イルカをパニックに陥れているのではないかというのです。

そのような強力な音波がイルカにどのような影響を与えているかを実験するのは、海の中の生簀にイルカを入れ、そこへ超音波を発する海軍用の測深儀を使い、イルカの行動を観測すれば、簡単に分りそうなものですが、そんな実験が行われないのは、もし超音波がイルカの集団自殺の原因だと分ったとしても、世界に何万隻と走っているすべての軍艦、商船、プレジャーボートから測深儀、魚群探知機を取り外すことなど、不可能だからでしょうか。

それとも、何十年、何百年に一度起こる笹の実の大収穫と時を合わせるように大発生する野ネズミが、海になだれ込むように、過剰に保護されたイルカが急激に多くなりすぎて集団自殺に走っているのでしょうか。

キャロライン大使がブログに書いたような、人間を忘れた安易な動物愛護主義が一般的アメリカの主流だと言ってよいでしょう。情けない見識ですが…。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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