第346回:抹茶の効用と健康ブーム
健康ブームに火が付くと、爆発的に関連商品が出回り、値上がりします。アメリカで大昔の開拓時代から食べ続けてきたオートミール(麦のおかゆに牛乳を入れただけのものです)が、一挙に値上がりしたことがあります。それまでのオートミールは、ネチャネチャ、ドロドロした朝ご飯で、到って人気落ち、田舎臭いモノで、それよりセンサマンベツ(千差万別)、よりどりみどりのコールドシリアルに取って代わられようとしていました。
ところが、オートミールはコレステロール降下に良い、牛乳を避け、流行の豆乳を使うと、ほぼ完璧な食事だ…と誰かか言い出し、我も我もとオートミールに群がり、結果、大きな袋で売っていたのが、カッコイイ箱詰めになり、値段が沸騰しました。長い人生、ズーッと、オートミールの朝ご飯を摂ってきた私にとって、急に殴り込みを掛けられた気分です。
しかし心配するには及びません。健康ブームに群がる人種は移り気で、すぐにオートミール離れが始まり、今では価格も落ち着きました。
同じようなことがベーグルにも起こり、イットキ、あらゆる町角にべーグル屋がオープンし、盛大なベーグルブームが起こり、町中ベーグル屋だらけになったことがありました。そのブームもすぐに去り、80%くらいのベーグル屋さんは潰れたのではないかしら。まだがんばっているベーグル屋さんもいますが、これは昔からベーグルが本当に好きだった人がズーット買い続けているのでしょう。
昨日、テレビのニュースを観ようとスイッチを入れたところ、まだ早かったのでしょう、その前の健康番組をやっていました。日本食はブームというより定着、安定した人気がありますが、砂糖を全く入れずに飲むお茶、とりわけ苦味、渋みのある煎茶、抹茶はアメリカで広がっているとは言えません。
アメリカで市販されているジャパニィーズ・グリーンティーは、日本の緑茶、煎茶とは似て非なるもので、味も香りも全く別種のお茶です。ところが、その番組で日本通らしき人物が、抹茶がいかに健康に良いかを得々と説き、一日2杯抹茶を飲むと、ストレスが消え、皮膚が若返り、胃腸をきれいにし、老化しない…などと、良いことだらけのように言っているのです。
それが本当なら、日本人は皆ストレスなし、肌はツヤツヤ、元気な老人で満ち溢れていることになります。まあ、アメリカの老人ほど不健康な集団は世界中どこをさがしても、見当たらないでしょうけど。
そして、お茶の点て方ですが、これまたアメリカ的に大き目のボールに沸騰したお湯をドバドバと注ぎ、そこへ抹茶をステンレスのスプーンでガバッと入れ、どうにか竹の茶筅(チャセン)だけは使っていましたが、ボールのお湯に抹茶が溶けると、それをマグカップに分けて注ぎ入れて、「ハイ、ドーゾ」なのです。
もし苦すぎるなら、牛乳に砂糖、もしくは蜂蜜を入れるとよい。日本に抹茶のアイスクリーム、抹茶チョコレート、抹茶クッキーなどがあるから、各自工夫して抹茶のスムージー、抹茶マフィン、抹茶パンケーキなどを試すのもいいだろう…と言っていました。
ボールで抹茶を溶くのが手間なら、ミキサーを使えば良い…と懇切丁寧な忠告までしていました。確かに、抹茶をただの健康食品として捉えるなら、抹茶の持つ成分が破壊されない限り、どんな飲み方、料理法だろうと構わないのは道理です。そこには茶道のサの字もありませんが…。
しかし、ほんのおさわり程度しか茶道の経験がないのに言わしてもらえば、抹茶を点てて飲むのは、あわただしい事務所でコーヒーやお茶でノドを潤すのと全く違った行為だと思うのです。茶室に入るにしろ、野点てにしろ、そこではゆったりした時間が流れていなければなりません。ばたばた急ぐのは禁止です。ましてや、御手前の最中に携帯のチャカチャカしたベル、音楽が鳴り、「今、御茶やってるから、後でコッチから掛ける…」なんてことは許されないことでしょう。
抹茶を飲むのは、健康飲料水としてというより、落ち着いた時間と空間の中で、一服頂くという行為そのもののような気がします。
その番組の最後に、抹茶を購入できるインタネット販売会社のサイトをいくつか紹介していましたから、またお金に糸目をつけない健康オタクがどんどん買い、抹茶が値上がりすることでしょう。まだ私には、手持ちの抹茶がいくらかありますが、私の懐に即響くような浮ついた健康ブームは願い下げしてもらいたい心境です。
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