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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第307回:体重で払う航空券はデブへの差別か?

更新日2013/04/18



以前、プエルトリコの東のはずれに住んでいたとき、近くの小さな島、クレブラ島、ヴィエキス島、ヴァージン諸島へヨットでよく出かけました。ヨットは風まかせですから、急いでいないときにはノンビリと行くのも良いものですが、少し急いでいる時にはまるで用をなしません。

そこで、小さな飛行機に何度かお世話になりました。一応、『スパニシュカリビアン エアー』とか『クレブラエアー』とか仰々しい名前が付いているのですが、航空会社のオーナー自らがパイロットだったり、せいぜい2、3機、4人から6人乗りのプロペラ機を持っている程度の会社です。

その飛行機たるや、第二次大戦のお払いモノか…と思わせるほどボロでドアは針金の輪をねじ釘に引っ掛けて留めてあるような、かなり不安を抱かせるシロモノでした。そんなプロペラ機に乗る前に、必ず体重計に乗らなければなりませんでした。荷物も別に計ります。それで航空券の値段が異なることはないのですが、飛行機のバランスに、どこに重い人を座らせ、荷物はどのように積むか、微妙に影響する…のだそうです。

私の2倍の体重がありそうな人が隣に座ると、心なしか飛行機が滑走路を走って浮き上がるまでに時間がかかり、ムムッ、大丈夫かなと思わせますし、着陸のときもドスンと落ちるような気がします。これはパイロットの腕の違いかもしれませんが……。

そんな、体験をしていますから、今度、『サモアエアーラインズ』という、サモア近くの島々を結ぶ、小さな航空会社が体重によって航空券の料金を徴収する…と発表したとき、当然のこと、なぜ今までそうしなかったの…と奇妙に納得しました。

『サモアエアーラインズ』は一応国際線も飛ばしており(隣の島が外国になるので)、私が時々利用した会社の飛行機よりは少し大きめの、6~8人乗りが主体のようです。それでも、体重によって運行が左右されるのでしょう。おまけに、サモアの人たちの80%がオーバーウエイトで、しかも盛大に荷物を持って移動する習慣があるのだそうです。

この体重制チケットは、飛行距離によって異なりますが、体重+手荷物を1ポンド当たり93セントから1.06ドルの間で徴収する方式です。例えば、アピアからパゴパゴまで従来の航空券は140ドル前後でしたが、アメリカ人男性の平均体重は195ポンドですから、彼が35ポンドの手荷物を持っているとすると、合計230ポンドの重量になり、片道97ドル、往復で194ドルになります。従来の140ドルより54ドル高い料金を支払わなければならないことになります。これは体重を減らし、荷物を持たないで旅行する価値が出てこようというものです。

この体重制航空券は、アメリカの運輸省の認可(サモアはアメリカ領ですので)をすでに受けており、体重制航空券を採用しようと検討している航空会社がたくさん(主に非常に小さな航空会社ばかりですが)出てきています。

何にでも人権を持ち出すのがアメリカ的民主主義の弊害です。体重制航空券はデブへの重大な人権侵害だ、差別だというのです。これはおかしな話で、誰にでも痩せる自由はあるのですから……。

不健康に太っている人は、自らデブであることを選んでいる…とも言えます。マー、そう簡単に物事を割り切れない、とりわけ中高年になってからは、減量がとても大変なことは認めますが、飛行機で体重105ポンドの私の隣りに300ポンドクラス(約150キロ)の超デブが座り、肘掛を占領され、腰周りの肉が私の領域にまで侵略してくる事態に遭遇しますと、この人たちと私が同じ料金を払っている矛盾をヒシヒシと実感させられます。

こうなると、ヤセッポッチの権利を超デブから守れと…言いたくなります。ヤセは超デブの人たちの料金をカバーしてやっているのです。

アメリカの安売り航空会社は、チェックイン手荷物、スーツケース(預ける荷物)のすべてに別料金を徴収していますし、手荷物の重さの制限は厳しく、とても高い超過料金をとります。大手でも、チェックイン手荷物に別料金をとるところが増えてきました。アメリカの大手の航空会社が体重制航空券を採用するまでにはかなり高いハードルがいくつもあるでしょう。

郵便物では、"体積より重量"で払うのを当たり前のように受け入れているのですから、航空券も"座席ではなく体重"で払うのは理屈に合っていると思うのですが……。

でも、正直言って、私にはまだ、ウルトラデブの友達や義理の妹の前でこんな議論を持ち出す勇気はありません。"正論必ずしも公論とならず"です。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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