第312回:世界に最も影響を及ぼした100人
『Time誌』が毎年、"The 100 Most Influential People in the World"の特集をするたびに、このコラムでも受け売りをするように取り上げてきました。さてさて、今年はどんな人がこの特集に載り、載って当然なはずの誰が外されているのか、半ば週刊誌的、覗き見の趣味でページを開くのも、どうして楽しみなものです。
いつも、真っ先にチェックするのは、一体何人、日本人が載っているかということです。ところが、今年はたった一人、ユニクロの社長さんヤナイ・タダシさんだけでした。
確かに、彼は服装界に革命をもたらし、世界にユニクロありと広めましたが、日本から彼一人…というのは、なんだか寂しすぎるような気がします。ユニクロ社内で英語を共通語にするとか、ユニクロで働いている人の給料を世界中全部、日本と同じにするとか、日本企業というより、世界企業として、先見の明のある方式を次々と実践してはいるようです。
いくら私でも、お相撲さんが登場するとは思っていませんが、日本の文化関係や科学研究の分野から世界に影響を及ぼす人がもっと出てもよい…と期待しているのですが…。
今回、ページをめくり、100人の顔と名前を見て、軽いショックを受けたのは、そこに載っている大半の人たちの恐らく70%以上の名前すら聞いたことがなかったことです。山奥に住み、ほとんどテレビを観ず、ラジオも聞かず、新聞も読まないと、世の中の出来事に疎くなり、ウチの仙人みたいになってしまったのかしら…、まるで南海の孤島に漂流して暮しているようなものです。
この特集記事は、選ばれた100人のことを、その人たちと同じくらいか、それ以上に有名な人が書いていおり、それがまた、結構面白いのです。
オバマ大統領のことをヒラリー・クリントンが書くのは当然というか、意外性は少ないですが、ハリウッドの女優、ジェニファー・ローレンスのことをジョディー・フォスターが書き、スピルツバーグをニュース解説の大御所、トム・ブロコフが書き、バスケットボールのスーパースター、バロン・ジェイムスのこと書いたのは、これまた野球のヤンキーズの大スター、デレク・ジェッターです。
ミャンマーのアウンサンスーチーさんのことを前のアメリカ国長官だったメデェリーネ・アルブライトが短く、上手に書いています。たった100から200語で人物を的確に書き表すのはとても難しい作業でしょう。
今回の特集で取り上げられた、有名、高名、無名の人たちの中で、圧倒的な注目を集めたのは、女に教育など不要だとタリバンに撃たれ、奇跡的に生き伸び、その後もアラブの女性の教育の大切さを説いている15歳の少女、マララ・ユウサフザイさんです。
彼女は表紙になり、雑誌の中でも見開きページの写真が載っています。そして、マララさんの紹介記事を任されたのは、クリントン前大統領とヒラリー・クリントンの娘さん、チェルシー・クリントンです。
しかし、何と言っても後世に残るのは、表紙になったマララさんの白黒の写真ポートレイトだと思います。柔らかい丸顔に大きく澄んだ目、太い眉毛、優しく閉じた唇、すべて自然のままでいながら、彼女の聡明さと強い意志を感じさせる写真です。
この写真を撮ったカメラマンも、この写真一枚で名を残すことになるでしょう。こんな素晴らしいポートレイトを見た後では、他の人の写真がすべて焦点のない、あるいは作られすぎたものに見えてしまいました。
一枚の写真が、長大な文章より多くを語ることがある…という良い例です。
マララさんは、これからも障害の多い厳しい人生を歩むことになるでしょう。でも、マララさんのことは、アラブの女性だけでなく、世界中の人の記憶に何時までも残ることでしょう。
The
100 Most Influential People in the World | Apr. 29, 2013
第313回:ご遍路さん、現れる!
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