第321回:山との接し方いろいろ
丁度、4日間の山歩きから帰ってきたところです。"山登り"と言わないところに注目してください。確かに山登りと言いたくても言えないような、山裾を歩きまわってきただけなのですから。
当初の狙いは、テント、寝袋などの道具を担いで、3,600メートル付近でキャンプし、そこから身軽になって三つのフォーティーナー(14,000フィートクラスの山)を登るというものでした。私たちにしては重いバックパックを背負い、強行軍でベースキャンプ予定地までたどり着き、テントを張ったまではよかったのですが、翌日、タラス(石や岩がゴロゴロしているところ)を登り始め、馬の背まで行ったところ、ヘリコプターがパタパタと飛び交い、なにやら救助活動をしているのを目撃したのです。
降りてきた若いカップルに聞いたところ、私たちと同じ山を目指していた登山家が落石に当り、壁から落ち骨折したと教えてくれました。
しばらくしてから、本格的な岩登り風のマッチョマンが降りてくるのに出会い、この山は頂上付近まで岩が崩れ易く、非常に危険な山だ、今年、3人死亡しているというのです。
ウチのダンナさんは山羊みたいな人で、急な岩場や山道をヒョイヒョイとどこでも行くのですが、今年の冬、雪に隠れた岩に嫌っというほどつま先をぶつけ、足の親指を折り、爪を剥がしてから、なにやらバランスが怪しくなりました。ただ歳を取っただけなのかもしれませんが。いつもなら、私を待たせ、一人で山頂まで登ってくるのですが、尾根を渡り、「オオ、あれがその山か、実にいい山だ」とか言って、景色を堪能し、引き返してきたのです。これはチョットした異変です。
山には様々な接し方があることを、歳とともに学んだ? のでしょうか。
インターネットで富士山の山開きの写真を見て驚きました。あれは何と呼んだら良いのでしょうか、ジグザグの山道がまさに何千という人の行列で埋まっているのです。前の人のお尻に顔をぶつけないで頂上までたどり着くのは不可能でしょう。
それに、あのスポーツ用品のカタログそのままのような服装はどうでしょう。皆が皆、例外なくブランド物のジャケット、ズボン、サングラス、帽子で身を固めているのです。そこまで見えませんでしたが、絶対に靴もナントカブランドの高価なものでしょう。マー、それは、山ファッションで着飾るのも一つの山の楽しみ方ですから良いとして、山に行って、そんな人並みにもまれることに、何の楽しみがあるのでしょう。山に行くのは、都会の人混みから逃れるためではなかったのかしら…。
私たちが行った4日間の山歩きで出会った人は6、7人でした。それに私たちの装備というのか山歩きスタイルも救世軍の古着を主な供給源とし、その上、さらに自分で散々着古したものばかりです。シカやクマに最新のファッションを見せたところで、彼らは分からないと思いますが…。
日本に帰っていた時、丁度、スキーヤーで冒険家の三浦雄一郎さんが何と80歳でエベレストに登ったニュースが話題になっていました。三浦さん、おめでとうございます。凄いことです。
ウチの山羊のダンナさんが借りてくるドキュメンタリー映画で、実にたくさんの山登り映画を観ました。エベレストは世界で一番高いというシンボリックな意味が大きいですから、それは、それはありとあらゆる人が登っています。全盲の人、重度の身体障害者、酸素ボンベなし、単独、山頂での結婚式と、これ以上のバリエーションはありえない…といってよいほどです。
コロラドに帰ってから、『ナショナル・ジオグラフィック』(6月号、2013年)を見て驚きました。エベレストの頂上へ登る最後の段階、ヒラリーステップは降りる人と登る人で大混雑も良いところで、3列横に並び、まさに押すな押すなの状態なのです。
この写真は2012年の5月19日に撮られたものですが、ぽっかりと良い天候が予想され、待ち構えていた人たちが、それっとばかり押しかけ、この日一日で234人も登頂しました。このレポートを書いたマーク・ジェンキンスさんによると、頂上に立つスペースもないほどの混みようだったと言います。今年の統計はもちろんまだ出ていませんが、2012年に547人がエべレストの頂上に立っています。
このような、エベレストの人気、混雑はショーバイ、大枚を払えば"エベレストに登頂させてあげます"というツアー会社が雨後の竹の子のように出てきたからです。1996年、プロのエベレスト登頂ツアーが始まったばかりのとき、不幸にして日本女性オオバ・ヤスコさんがロブ・ホール隊に参加して亡くなりました。その時は9人のお客さん登山家に対し16人のプロガイドとシェルパが付いていました。それでも惨事が起きたのです(ジョン・クラコウの本『Into
thin air』による)。
今、エベレスト登頂ツアーは300万円から1,200万円相当の料金を取っています。価格に大きな開きがあるのは、サポートの人の質と数、装備の善し悪しによるものだそうです。当たり前のことですが、経験のあるプロガイドの数は限られていますし、あらゆる緊急事態に対処できる優れたシェルパの数も限られています。中にはお金儲け主義のツアーグループもあることでしょう。5,720メートルにあるベースキャンプ村はサポート隊も含め数千人が住む、まるで一つの町のようです。
そして、衝撃的なのはゴミの山で、何年もゴミ回収車がやってこない、汚れきった町のように見えます。というのは、日常のゴミのほか、高地なので、風化するスピードが著しく遅いのでしょうか、大便の山が凍りつき、その表面に陽が当ると、異様な臭気がベースキャンプ村を襲うそうです。
私たちはハイキングや山登り、山歩きがとても好きで、よく出かけます。ウチの仙人は、いつも「オレは世界、人類に役に立つようなことは何もしてこなかったけど、せめて地球や自然に傷跡を残さずに、消えるように死にたい」と言っています。
何をまた、変なことばかり言うのかと思っていたのですが、エベレストのキャンプ村の惨状を見たり、サウスコルに捨てられた酸素ボンベの山を見ると、山を汚して頂上に立つ意味が分からなくなってきます。
第322回:この夏を涼しく過ごす方法
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