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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第316回:天才教育と銃規制

更新日2013/06/21



小さい時にオモチャの拳銃やライフルで遊んでいたからといって、そんな子供のすべてが殺し屋になるわけではありません。戦争ごっこが大好きだった子供が、大きくなって軍人になる確率は、他の子に比べ多少高いかもしれませんが、確率統計を示した調査などはないでしょう。

それでなくても、ビデオゲームで撃ち合い、殺し合いを経験できるのですから、わざわざオモチャの拳銃を買い与える必要がなくなってきたのかもしれません。

ところが、ケンタッキー州、カンバーランド郡、バークスヴィルという町に住む銃火器マニアの親が、5歳のわが子に天才教育を施そうとしたのでしょうか、0.22キャリバーのライフルをプレゼントしたのです。

このライフルは"クリケット"と呼ばれ、少年が最初に持つ、与えるライフルとして少年用にデザインされたものです。この手の少年用ライフルは6万丁も売れており、その子らは将来ガンマニアになる大切なお客さんというわけです。

いくら小口径のライフルとは言え、充分に殺傷能力があります。そして、それを自分の2歳になる妹に証明して見せたのでしょうか、撃ち殺してしまったのです。

死んだ妹も可愛そうですが、妹を殺してしまった5歳のボウヤも一生重い十字架を背負って生きなければならないことでしょう。それにしても、なんと愚かな親でしょう。まだ満足に何が危険で、何をしてはならないかの分別が付くはるか以前の、赤ちゃんの域から抜け出ていない子供に、実弾の入った銃を買い与える、それほど馬鹿な大人、親がいることにあきれてしまいました。

事件が起こった時、家には母親もいましたから、これは本物の銃を買い与え、しかも実弾が入ったままで遊ばせた親の方を逮捕し、処罰すべきでしょう。

フロリダ州、フォートローダデルでも6歳のボウヤが13歳のお兄ちゃんをピストルで撃ちました。また、テキサス州では5歳のボウヤが7歳の友達を撃ち殺し、2歳の赤ちゃんがお父さんのピストルで遊んでいて自分を撃って死亡、8歳のボウヤが5歳の子供の頭を撃ち抜くなど、こんな事件は、毎日何十と起きる偶発的な銃火器の事件の一つに過ぎません。

アメリカ児童青年精神医学会(American Academy of Child and Adolescent Psychiatry)によれば、銃の事故で年間3,000人の子供が死亡し、1万5,000人が負傷しています。 これはアフガニスタンで命を落とすアメリカの兵隊さんよりズーッと多い数字です。

マサチューセッツ州、サンディーフック小学校での大量殺人以降、オバマ大統領は機関銃のように何十発もの弾を撃てる銃の販売を禁止し、銃を購入する時の無犯罪証明、精神病歴証明を強化する法案を通そうとしました。それを支持する人たち、サンディーフックで殺された子供たちの親、先生たちの身内が詰めかけ、法案を通そうと小さなデモンストレーションをしました。少なくても、マスコミの目を引くことには成功し、テレビや新聞のニュースになりました。

ところが、これがアメリカの政治の奇妙なところで、オバマ大統領の、私から見れば、まどろっこしいくらい緩い銃の規制ですら、しかも世論調査で80%以上が支持している法案にもかかわらず、共和党が過半数を占める議会で、これが通らなかったのです。

この時、オバマ大統領は、「銃規制が議会で否決されたことは、アメリカの歴史に残る民主主義の恥だ」と珍しく怒りを表していました。 

テキサス州ヒューストンで、NRA(National Rifle Association、アメリカで最大級の圧力団体で、銃の規制に反対している)の総会が開かれました。この500万人のメンバーを持つ団体のことは何度か私のコラムでも取り上げましたが、武器、銃火器、弾薬のメーカーが莫大なお金をつぎ込み、豊かな資金源を持つ、コトあるごとに"銃の自由化"を叫んでいる右翼団体です。このNRA総会に共和党議員、保守派の人たちが7万人もが集まり、"オバマ大統領の銃規制法案をすべて潰した…"と勝利宣言をし、ヤンヤの喝采を浴びていました。

日本では、憲法改正などに反対するのは革新派、第9条を改正して正規の軍隊を持つことができるようにしようというのが右寄りと相場?が決まっていますが、アメリカは逆で、銃を誰でももっと自由に持てるように、一切の規制に反対、憲法で明記されたアメリカ国民の"自由"(Freedom というのがアメリカでは何事においても"殺し文句"なのです)を守ろう…というのが、右翼です。 

銃火器、兵器、弾薬産業は好況で、生産が追いつかないほどです。最近では、メキシコなど中南米のドラックディーラーたちが規制のほとんどないテキサスへ、鉄砲、ピストル、機関銃のショッピングツアーに出かけてくるほどです。

うちの仙人は、日本で大昔やった"刀狩り"(秀吉が行った? これ仙人の記憶のほどは確かではありません)でもしなければ、すでに膨大に出回っている銃、それに追い討ちをかけるように売りまくっている銃をアメリカからなくすことはできないのではないか…と、夢みたいなことと言っています。

昔から繰り返されている銃規制の問題に解決策はないのでしょうか。

 

 

第317回:世界遺産登録の怪

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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