第341回:ベテランズ・デイ=退役軍人の日
11月11日はベテランズ・デイ=退役軍人の日で、公官庁、銀行、郵便局はお休みでした。郵便局は優先的に元軍人を採用しますから、休みになっても当然という気がしますが、銀行までどうして休みになるのか分りません。私たちの大学や町中のお店は休みではないという、なんだか中途半端な祭日です。
この日は、退役軍人の日といっても、アフガニスタンから帰ったばかりの、身体は筋肉マンでも、ホッペの赤いボーヤ風の軍人から、南北戦争の生き残りか?と思わせるほどの車椅子の超老人まで、町中をパレードしたり、それぞれの隊で記念講演や会食があったりで、テレビ、新聞もそのニュースで持ちきりになります。
地元のレストランやバーも、退役軍人は食べ放題、飲み放題のタダにするところが多く、私の事務所を定期的に訪れる94歳のディーンお爺さん(第二次世界大戦に徴兵されました)は、朝ご飯はどこ、お昼はどこのレストランが良い、晩はあそこのナニナニが美味しいからそこに行こうと、タダ食いの計画に忙しいことです。
このような、兵隊さんの日、軍人の日をハデにお祝いするのは、アメリカのナショナリズムと強く結びついており、この日ばかりは、アフガニスタン、イラク戦争反対の声は掻き消されてしまいます。ウチのダンナさんによれば、「そんな祭日、日本にはないんじゃないか」と言っています。確かに、"自衛隊の日"なんて聞いたことがありませんが、しばらく住んだことのあるスペインにも、そんな祭日はなかったように思います。
アメリカは建国の時から今まで、常時戦争ばかりしてきましたから、職業軍人、義務兵役で取られた兵隊さんなどが身近に沢山います。お前たち、税金で何をしに外国まで出かけていたのだと言ってしまっては、国の権威を損ないますから、大いに褒め、ご苦労さん、国を守ってくれてありがとう、という形式を取っているのでしょうね。もちろん、戦争で苦労をするのは軍人だけでなく、残された家族も含め、相手の国の人たちはもっと大変なのですが……。
軍服を着た人が大学のキャンパスを歩いているのを見て、かなりの事情通のはずのうちのダンナさんでさえ、最初、異様に見えたそうです。日本の普通の大学、防衛大学以外で、例えば、御茶ノ水界隈の私立の大学で軍服を着て授業を受けている学生はマズいないでしょう。
アメリカの大学には、ROTC(Reserve Officer Training Corps, 予備役将校訓練隊とでも訳せばいいのでしょうか)があり、それも半端な数字ではなく、全米の1,000の大学にあります。立派な建物をキャンパス内に持つもの、建物の一角を使っているだけのものなど様々ですが、ROTCの学生は、大学の普通の授業を受講し、と同時に軍事科学や戦術など、ベテランの上官に教わります。
ROTCに入れば、軍のエリートが行くウエストポイントのような士官学校に入れなくても、士官になる道が開け、かつタダで大学に通うことができ、卒業資格が得られるのです。おまけに、卒業後の就職、職業軍人になるか、軍隊絡みの企業に入ることが100%保障されており、大学は出たけれど…どこにも行くところがない状態に陥らずに済みます。
ブッシュ大統領の時、国務長官を務めたコリン・パウエルは、ジャマイカからの移民の子で、とても貧しい家の出身ですが、このROTCで大学院まで出て、あそこまで上り詰めました。
アメリカで軍人、退役軍人を甘やかし過ぎじゃないの、どこにも就職できず、大学に行く頭脳はないけど、体だけは丈夫というような人が、2、3年軍に入っただけで、様々かつ盛大な御利益、役得を得られるのに、チョット苦々しい気分を持っていました。何年か兵役に就くとタダで大学に行けるシステムを利用して、今まで幾人か、元軍人が私の授業を受講してきました。
彼らは一様にマジメで、宿題、レポートをきちんとこなし、授業もサボらず、成績も上位なのです。天才的な頭脳の持ち主というのではありませんが、ともかく一生懸命に努力するのです。あなたたちは皆、勤勉で成績が良いねと言ったところ、テレながら、「イヤー単位を落とすと、奨学金を打ち切られてしまうから」とは言っていますが、それだけではないでしょう。
親のスネカジリが多い中で、少なくとも、自分でやっていこうという元兵隊さんたちは、毅然と自立しているように見えるのです。私は軍人だけでなく、制服を着ている人間を生理的に嫌っていましたが、考え方を改めなければなりません。それどころか、スネをカジリながら言い訳ばかりして、自分の責任、義務を取ろうとしない、学生たち全員を一度、軍に入れた方が良いのではないかと思い始めたくらいです。
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