第248回:人種偏見と差別
偏見のない思想は存在せず、自分は偏見を持っていないということ自体、偏見があることだ……とよく言われます。偏見を持たない人間はこの世の中にいない……と言ってもよさそうです。
私自身、よく分からないのですが、偏見にはコレステロールのように善玉、悪玉があり、ある物事や人種に実際以上の良いイメージを持ち続けること(これも一種の偏見なのですが)は問題にされないようですから、偏見という言葉自体が悪いコレステロールのようにマイナスの意味を含んだ言葉と取って良さそうです。
そして偏見と差別の間に、とりわけ心理的な場合、一線を引くのはとても難しいのです。人種問題が絡んだとき、小さな偏見は差別に繋がり易いのでしょう。そして、人種間の偏見が差別に発展していくのは、相手が自分の立場を脅かす存在になってきた時です。
なんだか、理屈っぽい書き出しになってしまいましたが、移民がつくり、長い奴隷時代を経て、人種の坩堝(ルツボ)のアメリカでまたまた、人種偏見が差別につながる奇妙な事件が続けて起こり、考えさせられたからです。
ベトナム戦争、イラク、アフガニスタンの戦争と、アメリカは作りすぎた武器、弾薬をどこかで使い、消費しなければならないからでしょうか、いつも戦争ばかりしています。べトナム戦争の時には、白人に比べ異常に高い比率の黒人が戦場に赴きましたが、イラク、アフガニスタンの前線では、黒人に加えヒスパニック、スペイン語を話す国、メキシコなど中南米からの移民一世、二世が大幅に増えました。加えて、アジア系の中国、ベトナム、フィリピン、韓国の兵隊さんが沢山前線に行くようになりました。
一定期間戦場で過ごすと、大学へ無料で行けるとか、グリーンカードを持っている人はアメリカ国籍取得が容易になるとか、おいしそうな付加価値を沢山付けて、兵隊さんを集めているのからです。
中国系アメリカ人のダニー・チェンさんはそんな甘い言葉につられたのでしょうか、軍に応募しアフガニスタンに送られました。勇気ある兵卒として優秀だったようです。
ところが、彼の優秀さを同僚の兵隊たちは胡散臭く、煙たく思い始め、軍隊の中でのイジメが始まったのです。イジメはエスカレートし、ダニー・チェンさんは見張りの塔の中で自殺してしまったのです。この事件の悲惨さはダニー・チェンさんをそこまで追い詰めたイジメル側の兵隊も、普段あらゆる面で社会から差別を受けていた黒人とスパニッシュと呼ばれる中南米からのラテン系の兵隊だったことです。
このように偏見が差別に至り、そして、暴力的排他行為に直結する例がたくさんあります。
もうひとつの事件は、銀行が社内規約として黒人、ヒスパニックの人々から組織的に高い手数料と利子を取っていたことです。
アメリカ銀行(Bank of America)がカルフォルニア全域で2004年から2007年まで、同じ条件の白人より高い手数料と利子を取っていたことが明るみに出て、カルフォルニア中央裁判所が、この期間に不当に高い利子で融資を受けていた黒人、ヒスパニックの人たち20万人に対し335億円相当の賠償支払いを命じました。これなどは、組織的で悪質な差別行為です。
こうなると、どうにも偏見は思想に味を付けるスパイスだ……などと言っていられません。
私自身、とても偏見のない思想の持ち主だと自己判断などとてもできません。私のイメージする日本、日本人は、うちのダンナさんに言わせれば、理想化しすぎて現実的でないそうです。ダンナさんの方は、「俺はアメリカナイーズされ、スポイルされた元日本人だ」と言いながら、私の持つ謙遜で美しい日本人のイメージを崩すようなことばかりしているのですが……。
マー、私の日本人に対する偏見は、善玉コレステロールのように良い偏見なのかもしれませんが……。
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