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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第206回:踊る自由の女神と税金申告

更新日2011/04/21

この時期になると、町のメインストリートやハイウエイから町に入る信号付近で自由の女神の服装をした人が立ち、手を振ったり、踊ったりしているのが目に付きます。

ブロンズの銅像が古くなり変色したような緑色の、自由の女神そのままのガウンを着て、カンムリをかぶり、多くの女神たちはヘッドフォンで音楽を聞きながらディスコでラップダンスを踊っているように身体を揺らしているのです。そしてドライバーと目が会うと、首から下げたプラカードを指差し、あちらへ行けと指示するのです。とても陽気だし、退屈なサンドウィッチマンのシゴトを音楽にのりながら楽しんでやっています。

この踊る自由の女神は、税金申告をするための税理事務所の宣伝なのです。アメリカでは、すべての国民が個人の責任で毎年税金を申請しなければならないことは、この季節にもう何度か書きました。本当に煩わしいことですが、それが国民としての最低の義務なのですから、私もアルバイトを始めた16歳からズーッと毎年毎年申告しています。

おかしなことに、税金の申告なのに、"Tax return"払い戻しの申請と呼び習わせています。お給料から毎月、税金が大量に差し引かれて、かなり目減りのした手取りを受け取り、それを細かく計算し直し、大病をしたから、その入院費、家が燃えちゃったから、その損失などを控除を計算し直し、払いすぎたから、払い戻せ(これが"Tax return"になります)とか、アラマア、どうやっても、もっと払わなければならない計算になる、しょうがないから、月賦が年賦で払うか……となります。

"Tax return"というと、なにかお金が戻ってくる…と嬉しい気もしますが、元はと言えば、私が取られすぎていた税金が返ってくるのですから、その期間の利子を付けてもらいたいような気分です。戻ってくる年もありますが、たいていはもっと支払わなければなりません。

問題はその計算方法が複雑で、第一、自分にどういう税金申告用紙が必要なのか判断するのすら難問なのです。私たちは、アメリカ人としては例外中の例外で、家や車のローン、子供を大学にやるためのローンもなく(子供がいないから当たり前ですけど)、大病もせず、車の事故もなく、山の小屋も天災に会わず、気持ちばかりですが、日本の東北や他の人たちへの寄付が控除の対象になるだけの、一番簡単な申告です。

ですが、それにしても申告の用紙、インストラクションは162ページあり、しかも、老眼の私には判読困難な細かい字でぎっしり書いてあるのです。どこの誰がこんなものを全部読むものかと、言いたくなります。

そこで登場するのが、街頭で踊っている自由の女神税理事務所です。資格を持った税理士が、アメリカ人全員に行き渡るだけいるわけではありませんから、税理士は最後にサインするだけ、通常チョット経験があるアルバイト的事務員が税金申告の実際の仕事をしているというのが実情です。

税金の申告は一時期に集中する仕事ですから、つい機械的に手早く処理してしまうのでしょう、これも毎年のようにニュースで繰り返される、税理事務所の間違い、不正、払戻金の横領などが起こります。

私の両親はもうかなり昔に定年退職し、年金暮らしですが、大きな家のローンを全額払わずに、その分、個人財産管理士、コンサルタント先生の忠告に従い、投資に回し、その上がりでローンを払っていくという、なんともオロカナ選択をしましたので、毎年の税金申告は非常に込み入った大変な仕事になってしまいました。

これも知り合いの税理士に頼んで見てもらっていましたが、税理には全くの素人の私の弟がチラット目を通したところ、間違いだらけ、盛大に税金を払い過ぎていたことが分かりました。しかも何年にも渡ってです。

私の両親のような年寄りでなくても、税金の申告インストラクションを読み、自分で間違いなく申告できない人はたくさんいるでしょう。それどころか、自分で申告をしている人はメッタにいないといってよいでしょう。

90何パーセントかのアメリカ人は、自由の女神かスーパーの中に机一台置いた税理士の代理人のさらに下請けさんに申告してもらっているのです。それらの一応プロの税金関係者を信用できないとなれば、一体どうやって税金を払え…というのかしら。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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