第238回:財政難で囚人開放
"囚人開放"などと、週刊誌かスポーツ新聞並の大げさな題を付けてしまいました。 フランス革命の幕開けはバスチューの牢獄の開放でしたが、はるかにスケールが小さいとは言え、同じことがカンサス州の首都トピカで起こりました。
資本主義の最先端?を行くアメリカですから、お金がすべてに優先します。お金がなければ何もできない、動きません。
カンサス州のトピカでは、財政が行き詰まり、裁判を行う費用にも事欠き、裁判官、判事、検事、国選弁護士に払う費用がない、それならば裁判を止めてしまえ……という至って明快な理由で、手始めに家庭内暴力の訴えは一切受け付けず、現在進行中の家庭内暴力で軽度のケースは(何を持って軽度とするのか判りませんが、病院で治療を受けなければならないかどうかが一応の規準となるようで、往復ビンタは軽度に分類されるようです)すべて打ち切り、加えて、その程度の軽い?家庭内暴力で実刑を受けている囚人を解放したのです。
裁判に膨大な時間と費用がかかることは重々知っていましたが、お金がないから止めてしまえ、ついでに同罪で刑に服している囚人もお金がかかるだけだから解き放してしまえという決定を実際に市議会が7対3で下したのです。
法律の実定制を重んじて?拘置所で裁判を待っていた未決囚や、刑が確定し牢につながれていた囚人たちを一斉にシャバに出したのです。昨年、軽い犯罪で逮捕され牢にいた423人も釈放です。これらには、万引き、マリファナのような覚醒タバコの所持、バーや通りで素手でケンカをした者も含まれますから、具体的に何人の家庭内暴力容疑者とその件で刑が確定した囚人がいたの分かりません。
9月の例ですと、トピカでは家庭内暴力で18人逮捕され、全員"御構いなし"として釈放されていますから、423人中家庭内暴力で拘留されていた人は200人前後だと思われます。
釈放された囚人が我が家に戻り、「お前、よくも俺を訴えて牢に押し込めてくれたな」と暴れるであろうことは目に見えています。しかも、今度は相手の骨でも折り、救急車でも呼ぶ事態にならない限り、"多少の折檻"くらいでは捕まらないと知っているのですから、その当たりを心がけて存分に暴れまくるであろうことは、想像力をチョット働かせれば(働かせなくても)分かることです。
トピカで一番大きな"駆け込み寺"(逃げ込み寺と言った方が当たっているかしら)はYWCAです。YWCAでは暴力に耐えられず家を捨て逃げてきた人を匿い、司法処置を取り、被害者を助けてきました。しかし、これから被害者の立場で裁判所に訴え、取り上げてもらうことすら非常に難しくなり、被害者を収容できるスペースも限られているので、大きな問題を抱え込むことになると、YWCA内で"家庭内暴力から女性を守る会"を指導しているベッキーさんは話しています。
州や市の財政が厳しいことは分かります。しかし、いつも犠牲を払わされ、切り捨てられるのは弱者で、今度の場合は、家庭内暴力に泣く被害者でした。それと同時に、アメリカの司法制度の一角が崩れることは、維持するのに余りにお金のかかり過ぎるアメリカ的民主主義への警鐘だと感じるのは私だけなのかしら。
第239回:"シーベルト""シューベルト""シートベルト"
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