のらり 大好評連載中   
 
■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第237回:早熟と晩生(オクテ)

更新日2011/11/24


モーツアルトは、早熟な天才の例としてよく引き合いに出されます。やれ、3歳でチェンバロをビルティオーソのように弾いたとか、5、6歳で交響曲を作曲したとか、天才談にことかきません。

音楽の才能は早くから花開く場合が多いようですが、それとて環境というのか、天才教育があってのことでしょう。

逆に、遅咲きの例として、絵描きのゴーギャンはどうでしょう。チョット、モームの小説と彼の本当の自伝とまぜこぜになってしまって断言できないのですが、かなりの晩生(オクテ)で、株式取引所に長いこと勤めていたのを中年になってから辞め、ヤオラ奮起してあのような大画家になったと記憶しています。

日本には"大器晩成"というオクテをよしとする格言があります。幕末の人気トップスター、坂本龍馬も小便タレで泣き虫の少年だったといいますから、かなりのオクテだったのでしょう。

ですから、オクテが必ずしも悪いことではなく、体と精神がバランスよく成長していくことが大切だ……と言ってよいのだと思います。

アメリカでは早熟な少女が増えていて問題になっています。早熟と言っても、身体の方だけ異常に早く成熟し、"小さな女"になってしまうのです。早い子だと8歳ですでに初潮があり、すぐにオッパイが膨らみ始め、精神、頭の方はまだまだ少女というより子供なのに、肉体だけ大人になってしまうのです。

1913年には平均初潮は17歳でしたが、今では13歳以下になりました。原因は行き過ぎた栄養と運動不足、その両方が相乗作用をして、幼い頃からの肥満、そしてホルモン剤を多用した肉類を食べること、他の化学薬品の影響で、身体だけが早熟になってしまうと言われています。

プエルトリコに住んでいた時、歴史と宗教の先生の10歳になる息子のオッパイが成人した女性のように膨らみ始めたことがあります。検査の結果、プエルトリコ人の大好きな鶏のほとんどがホルモン剤で太らせているので、そんな鶏を食べている成長期の子供に影響が出たと判明したことがあります。

このような、肉体だけの早熟の弊害を訴えるのは今に始まったことではなく、手元にある日本の本をダンナさんに調べてもらったところ、1976年に中山健太郎教授が早熟を嘆き、警鐘を鳴らしているのを見つけました。中山教授によると、筋力が伴っていないから、骨折が多く、身体全体に締りがなく、ブロイラーを思わせるとまで言っています。(これは立花隆の『文明の逆説』からの孫引きです。ご了承ください)

外で、太陽の下で駆けずり回り、よく遊び、身体を使い、引き締まった筋力を作りながら、ゆっくりと成長していくようにしなければならない……と指摘しています。

中山先生が30年も前に警鐘を鳴らしていたのですが、事態は悪化の一途をたどり、12-3歳で身体だけは一人前の女になって、精神は幼児のようなアンバランスな少女が圧倒的多数を占めるようになってしまいました。

実際、このような早熟は本人にとって、とても不幸なことです。早熟がアメリカで異常に高いティーンエイジャーの妊娠、少女に対する性犯罪の呼び水になっていることは確実です。

それでは、どのように肉体の早熟を正常な状態に引き戻せるのか、答えは簡単です。子供の食生活を変え、ホルモン剤を与えている鶏、牛、ブタ肉を避けること、戸外で遊ばせ充分な運動をさせることに尽きます。

少女たちの異常な成長を抑える注射治療もありますが、月に1,400ドルもかかります。病気でないのだから、なにもそこまでしなくても……という母親と、早熟を抑えるためにそんな処置が必要な事態になっているとする社会医療の先生たちとの間に大きな意見の差があります。

早熟イコール天才という図式は、こと身体に関する限り全く当てはまらず、逆に危険ですらあるのでしょうね。

 

 

第238回:財政難で囚人開放

このコラムの感想を書く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


Grace Joy
(グレース・ジョイ)
著者にメールを送る

中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

■連載完了コラム■
■グレートプレーンズのそよ風■
~アメリカ中西部今昔物語
[全28回]


バックナンバー

第1回~第50回まで
第51回~第100回まで
第100回~第150回まで
第151回~第200回まで

第201回:天災の国
第202回:多文化主義の敗北…?
第203回:現代の三種の神器
第204回:日本女性の地位と男女同権
第205回:本当に"原子力発電所"は必要なのか?
第206回:踊る自由の女神と税金申告
第207回:七面鳥たちの悲劇
第208回:ローヤルウエディングとアメリカのローヤルファミリー
第209回:世界に影響を与えた100人
第210回:「想定外」と「想定内」
第211回:山に春がきた
第212回:海外からの義援金
第213回:明治維新とイラク、エジプト、リビア
第214回:貧しくても美しい国
第215回:健康サプリ、ビタミン、痩せ薬 ~薬好きの国
第216回:エチケットとマナー
第217回:同化と学ぶ姿勢の問題
第218回:11歳の少年にコンドーム?
第219回:なでしこジャパンの快挙
第220回:一日をより長くゆったりと過ごせる夏時間
第221回:世界に影響を与えた100人
第222回:繁栄指数と教育の関係について
第223回:クマが出た!
第224回:憧れの優雅な生活とは…
第225回:逃げた人も…逃げなかった人も…
第226回:ド忘れの年頃
第227回:同性同士の結婚と州法
第228回:美男、美女はお金持ちになるってホント?
第229回:見せるための台所と家の心
第230回:花の命は短くて……
第231回:男女平等とベテア・シロタ・ゴードンさん
第232回:健康のためのデブ防止税
第233回:日本のクマ騒動とアメリカの猛獣狩り騒動
第234回:贈り物文化の日本
第235回:和製英語の実力
第236回:組織化されない政治運動と"Twitter"

■更新予定日:毎週木曜日