第237回:早熟と晩生(オクテ)
モーツアルトは、早熟な天才の例としてよく引き合いに出されます。やれ、3歳でチェンバロをビルティオーソのように弾いたとか、5、6歳で交響曲を作曲したとか、天才談にことかきません。
音楽の才能は早くから花開く場合が多いようですが、それとて環境というのか、天才教育があってのことでしょう。
逆に、遅咲きの例として、絵描きのゴーギャンはどうでしょう。チョット、モームの小説と彼の本当の自伝とまぜこぜになってしまって断言できないのですが、かなりの晩生(オクテ)で、株式取引所に長いこと勤めていたのを中年になってから辞め、ヤオラ奮起してあのような大画家になったと記憶しています。
日本には"大器晩成"というオクテをよしとする格言があります。幕末の人気トップスター、坂本龍馬も小便タレで泣き虫の少年だったといいますから、かなりのオクテだったのでしょう。
ですから、オクテが必ずしも悪いことではなく、体と精神がバランスよく成長していくことが大切だ……と言ってよいのだと思います。
アメリカでは早熟な少女が増えていて問題になっています。早熟と言っても、身体の方だけ異常に早く成熟し、"小さな女"になってしまうのです。早い子だと8歳ですでに初潮があり、すぐにオッパイが膨らみ始め、精神、頭の方はまだまだ少女というより子供なのに、肉体だけ大人になってしまうのです。
1913年には平均初潮は17歳でしたが、今では13歳以下になりました。原因は行き過ぎた栄養と運動不足、その両方が相乗作用をして、幼い頃からの肥満、そしてホルモン剤を多用した肉類を食べること、他の化学薬品の影響で、身体だけが早熟になってしまうと言われています。
プエルトリコに住んでいた時、歴史と宗教の先生の10歳になる息子のオッパイが成人した女性のように膨らみ始めたことがあります。検査の結果、プエルトリコ人の大好きな鶏のほとんどがホルモン剤で太らせているので、そんな鶏を食べている成長期の子供に影響が出たと判明したことがあります。
このような、肉体だけの早熟の弊害を訴えるのは今に始まったことではなく、手元にある日本の本をダンナさんに調べてもらったところ、1976年に中山健太郎教授が早熟を嘆き、警鐘を鳴らしているのを見つけました。中山教授によると、筋力が伴っていないから、骨折が多く、身体全体に締りがなく、ブロイラーを思わせるとまで言っています。(これは立花隆の『文明の逆説』からの孫引きです。ご了承ください)
外で、太陽の下で駆けずり回り、よく遊び、身体を使い、引き締まった筋力を作りながら、ゆっくりと成長していくようにしなければならない……と指摘しています。
中山先生が30年も前に警鐘を鳴らしていたのですが、事態は悪化の一途をたどり、12-3歳で身体だけは一人前の女になって、精神は幼児のようなアンバランスな少女が圧倒的多数を占めるようになってしまいました。
実際、このような早熟は本人にとって、とても不幸なことです。早熟がアメリカで異常に高いティーンエイジャーの妊娠、少女に対する性犯罪の呼び水になっていることは確実です。
それでは、どのように肉体の早熟を正常な状態に引き戻せるのか、答えは簡単です。子供の食生活を変え、ホルモン剤を与えている鶏、牛、ブタ肉を避けること、戸外で遊ばせ充分な運動をさせることに尽きます。
少女たちの異常な成長を抑える注射治療もありますが、月に1,400ドルもかかります。病気でないのだから、なにもそこまでしなくても……という母親と、早熟を抑えるためにそんな処置が必要な事態になっているとする社会医療の先生たちとの間に大きな意見の差があります。
早熟イコール天才という図式は、こと身体に関する限り全く当てはまらず、逆に危険ですらあるのでしょうね。
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