第219回:なでしこジャパンの快挙
私たちが住んでいる山小屋までテレビの電波が届かないことは何度か書きましたが、風も雲もない、よく晴れ渡った日にはABCだけ、画面にモザイク模様が入ったり、映像が凍りついたりしますが、どうにか入ってきます。
夕方5時半の国際ニュースを半分くらいの確率で見ることができます。今、アメリカの最大の問題は巨額な赤字財政をどうするか……なんですが、それを差し置いて、日本とアメリカの女子サッカーワールドカップ決勝にアメリカが、ペナルティー合戦の末敗れたニュースが取り上げられたのです。
24戦して負けたことのない相手、勝って当然と、誰もが思っていた相手、日本に一番大事なところで負けてしまったのです。
アメリカのスポーツ全般、プロスポーツだけでなく、高校、大学のアマチュアスポーツでも、優勝することだけにコダワリ、今回のワールドカップのような3位決定戦などありません。優勝すること以外に誰も興味を持たないのです。誰が3位と4位、5位と6位にこだわるモンですか……。優勝しなければ、他はすべて敗者なのです。そこには敗者をいたわる思いやりも、3位、4位になったなら立派なものだという心遣いもありません。
したがって、敗者の美、ゲームに勝って試合に負けた、という考えは薬にしたくてもありません。ただ勝つことだけが最終目的なのです。
ところが、今回のアメリカの敗戦は違いました。スポーツ音痴の私が、3、4冊の雑誌や新聞、インターネットで調べた限り、敗れたアメリカ女子チームを非難したり、技術的にどの場面で失敗があったとかという論評は全くなく、アメリカチームは全力を尽くした、素晴らしいチームだし、記念すべき良い試合だった。ただ、なでしこジャパンの方が際どいところで勝っていた、ハングリーだったと、口を合わせたように論評しているのです。
もちろん、アメリカの選手たちは口惜しかったことでしょうし、さぞガックリきたことでしょう。でも、彼女たちも驚くほど、全力を尽くした末、結果的にあのような負け方をしたのだから、とアッケラカンとし、なしでしこジャパンを称えていました。
アメリカでの女子サッカーの熱はとても高く、スポーツ好きな男の子が野球、アメフト、バスケットに分散してしまうのに比べ、女性はサッカーに集中し、圧倒的な人気で、大学までの女子の30%は何らかのサッカーチームに入り、プレーしたことがあると言われています。もちろん、プロのリーグもあり、有名な選手はテレビのコマーシャルで稼いでいます。
子どもにサッカーをさせるため車でチームのグラウンドまで送り迎えをする若いお母さんを"サッカーママ"と呼び始め、社会現象として捉えたのも、アメリカが最初ではなかったかしら。
また、こちらの論評は100%揃いも揃って、東日本大震災、福島原発事故に触れ、なでしこジャパンが復興の願いを込めて、通常以上の力を発揮した……という文面が多く、そのようにオバマ大統領も日本チームを祝福していました。一つには、なでしこジャパンがワールドカップの試合の後先に、世界中に東日本大震災の援助、どうもありがとうと英文で書いた垂れ幕を持ってグラウンドを一周していたためでしょう。ワールドカップを他の国々へお礼のメッセージを伝える場所として使った演出は最高の効果を生んだようです。
実際、今回のなでしこジャパンのように国や地元で大災害、不幸な事件が起こった後にそこのチームが奇跡的に勝つことがあるようです。アメリカ中が熱狂するアメリカンフットボールの最終戦スーパーボールでハリケーン・カトリーナで大打撃を受け、自分のスタジアムすらなかったニューオルリンズが勝ち、全米一になりましたし、コロラドのコロンバイン高校はあの大量銃殺、虐殺事件の年、やはりアメフットで優勝しています。
ですが、東日本大震災がチームに特別な力を与えた? というのは、テレビの前でビールを飲みながら、タラフク食べている人の言うことで、選手たちに失礼な気がします。 彼女たちは毎日とても厳しい練習で肉体と技術、精神力を磨き上げてきたからこそ、起こすことができた奇跡だというのが、公平な見方だと思います。
スポーツだけではありませんが、ダークホースが絶対的に有利とみなされている強敵を次々破り勝ち進んで行くのは、溜飲を下げさせてくれます。おまけに何かにつけてヨーロッパで嫌われ者のアメリカが、チビでヤセッポッチ揃いの日本と戦ったのですから、日本だけでなくヨーロッパ、今回予選に参加したアメリカ以外のすべての国々が、日本を応援していたと言ってもいいでしょう。
今回のなでしこジャパンは、日本に大きな感動と勇気を与えてくれました。同時に、アメリカ人にも潔い優雅な負けがあることを教えてくれたように思います。
なでしこジャパン、ありがとう!
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