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第497回:西武鉄道博物館 - 三岐鉄道三岐線 3 -

更新日2013/12/26


西藤原駅の滞在時間は10分ほどだった。当初の予定では戻りの列車を1本見送って、1時間ほど滞在するつもりだった。しかし、3台の保存車両を眺め、それぞれの説明看板を読み、運休中のミニ鉄道を俯瞰して、駅舎にほほえむ。それで満足した。帰りの電車の中で、もうすこし街を歩けばよかったと思った。周囲は静かな住宅地だった。でも、何か観るべきものがあったかもしれない。小さな神社とか、小川に掛かる橋とか。

先を急いだ理由は、空気が冷たかったから。そして、明るいうちに近鉄富田へ行きたかったから。三岐線に初めて乗ったけど、途中駅の丹生川からだ。丹生川から近鉄富田までを乗ってこそ"完乗"といえる。少しでも明るい車窓を眺めたい。


東藤原駅を再通過

また太平洋セメントの工場を通り抜ける。さっき見た景色だけど、パイプやコンベア、貨車の引き込み線など、もう一度見てもやっぱりおもしろい。東藤原の駅にタンク車がたくさん並んでいる。貨物列車の走りも観たかった。そして丹生川に到着。貨物鉄道博物館の閉館時刻は過ぎているけれど、まだ人影がある。後かたづけか反省会か、ボランティアのバスも停まっている。最後はあのバスで全員が引き上げるのかもしれない。

三重県の小さな鉄道文化施設は彼らの手で守られている。心のなかで手を合わせた。失礼ながら、三岐鉄道なんて地味なローカル線で、見どころはなさそうだと思っていた。それがとんでもない間違いだと知らされた。訪れてみたら、ニつの鉄道博物館、西藤原の保存車両、そしてセメント輸送の頼もしさ。どれも興味深い。何もないところにも何かある。行ってみなければ実感できない。


鈴鹿山脈が遠ざかる

丹生川からは初乗り区間だから、心して景色を眺める。先頭車両に行こうと思いつつ、やっぱり後部車両に留まった。乗客は私とブーツを履いた若い女性だけ。私が運転席の真後ろに陣取ったら、運転士さんの気に触るのではないか。そして、最後尾から運転室越しのほうが眺望が良いのではないかと思った。湘南顔の電車は、運転席後部の窓も大きく、良いパノラマであった。その窓の向こうで鈴鹿山脈が遠ざかる。

前面展望は新しい景色が次々と現れて面白い。しかし"後面展望"も悪くない。近景で"おや"と思った風景をしばらく追える。イチゴ狩り、という看板が遠ざかる。半球と三角錐の白い建物が遠ざかる。積み木のオモチャのようだな、と地図を見たら児童館らしい。良いセンスである。大安駅付近の住宅のいくつかは凸形をしている。イカの頭のようだ。どんな意味があるのだろう。


大安中央児童センター

鉄橋を渡ったぞ、と思ったら、水色の電気機関車が現れた。この形も見覚えがあるなと調べてみたら、出身は秩父鉄道であった。色が褪せているから、すでに退役しているのだろう。ここは保々駅の構内である。ずっとここに保存されるか、あるいは貨物鉄道博物館に飾られるか。近くの建物の壁に"運転区 CTCセンター"の文字がある。運行管理の要の施設だ。こんなに自己主張しなくても良さそうだけど、はっきり文字が読めるから、Google Mapsにも"CTCセンター"と記載されている。道標の役に立っているかもしれない。


秩父鉄道から移籍した電気機関車

保々駅に車両基地がある。ホームの隣には前面が平べったい電車が停まっている。これも元西武鉄道で、西武鉄道時代は401系という名前だった。国鉄の101系に似ていて、三岐鉄道では101系を名乗っているからややこしい。旧国電かと思うけれど、国鉄の101系は乗降扉が片側四つ。こちらは三つだ。短い停車時間に車窓から構内を見渡すと、西武鉄道の電車ばかり。新101系と呼ばれた湘南顔の電車があった。今のところ、あれが三岐鉄道の最新型だろう。ここは西武鉄道ファンにとっては博物館のような場所といえそうだ。


元西武鉄道の新101系

車両基地とCTCセンターを持つ保々駅は、三岐線の中枢施設だ。近鉄富田駅から保々駅までは区間列車も設定されている。ここから沿線に建物が増えていく。員弁川からは南へ遠ざかり、朝明川に沿っている。車窓の両側に丘が見えて、ちょっとした谷間だ。いなべ市と四日市市は典型的な扇状地である。こんな小さな川も、かつては山を削ったのだろうか。あるいは周囲に土砂を積もらせたか。

住宅は増えたけれど、密集という程でもない。ゆったりとして程よい住環境と言えそうだ。電車は高架線へと上り、複線をまたぐ。関西本線である。この先も三岐線の見どころのひとつ。線路が分岐して、片方は関西本線へ降りていく。あの線路は貨物列車用だ。私が乗った電車は高架のまま、また関西本線をまたいで、今度は近鉄名古屋線の複線に寄り添う。富田は関西本線と近鉄の両方に駅があり、少し離れている。


関西本線をまたぐ

三岐鉄道の電車は近鉄の富田駅に到着した。かつては国鉄の富田駅にも発着したそうだけど、現在は旅客は近鉄、貨物はJRに振り分けられる。旅客列車は近鉄のほうが多いから、このほうが便利。三岐鉄道にもメリットが大きいというわけだ。三岐鉄道のホームは近鉄の名古屋行きホームと共通で、名古屋へ乗り換えるには便利である。その近鉄のホームを、近鉄30000系ビスタカーが通過していった。


近鉄富田駅に到着


近鉄富田駅の駅舎

私は四日市に宿泊するから、反対側のホームに回った。ついでに改札を出て、駅舎を眺めた。近鉄の急行停車駅にしては小さい印象だけど、私鉄の駅はだいたいこんな大きさかもしれないとも思う。近鉄四日市までのきっぷを買ってホームに戻る。


三岐線の電車は保々行きとして折り返した

近鉄は運行頻度が高いから、ホームから線路を眺めているだけで楽しい。2両編成の名古屋行き普通電車が去っていき、急カーブの向こうで伊勢中川行きの普通列車とすれ違った。その列車を見送って、次の伊勢中川行きの急行に乗った。17時を過ぎたところ。外はまだ明るい。


近鉄の急行で四日市へ

-…つづく

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。
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