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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第466回:電車でスイスイ、セノハチ超え - 山陽本線 瀬野~三原 -

更新日2013/04/11


瀬野駅のホームで写真を撮っている御仁がいた。熱心に撮影している。EF67を狙いっているのだろうか。私は彼に挨拶して、並んでカメラを構えた。貨物列車がやってきた。先頭はEF210形。JR貨物が作った幹線用主力機だ。国鉄時代のエース、EF66形のデザインを踏襲し、正面はくさび形になっている。


補機のない貨物列車が瀬野駅を通過

これはこれでカッコいいけれど、目的は赤い真四角なEF67形だ。しかし貨車の最後尾に機関車の姿はなかった。貨車の連結が少ない時は補機を必要としないらしい。私はすこしがっかりした。さっき駅舎と一緒に撮ったからだ。カタログのようなきれいな写真ではないけれど、そんな写真は雑誌やネットでいつでも見られる。

瀬野から山陽本線で東へ進む。次の路線は呉線だ。呉線は広島駅近くの海田市駅から海沿いに進み、かつての軍港都市、呉を経由して山陽本線の三原駅に到達する。この呉線に乗るなら、瀬野から西へ3駅戻って海田市で乗り換えたほうが早い。海田市側のほうが本数も多い。


セノハチへ出発

今夜は倉敷あたりからサンライズで帰る予定で、海田市から呉線で三原に出て、そのまま山陽本線の上り列車に乗れば倉敷に到達する。このプランなら倉敷で食事をとる時間ができる。ちょっとお酒を入れて寝台車で眠れる。

しかし私は東へ向かい、三原から呉線で広島へ戻る順路を選んだ。単純な理由である。セノハチの線路を見たかったからだ。セノハチ経由で三原へ、三原から呉線で広島へ。そしてまたセノハチを超えて三原、さらに倉敷へ。海田市経由だとセノハチを通らないけれど、三原経由ならセノハチを二度通れる。もっとも二度目は日没後で景色は見えない。


電車は軽快に走っていく

もうひとつ。呉線で広島に出るルートにすると、万が一遅れた場合に、広島から新幹線で岡山へ行けば時間を取り戻せる。三原も新幹線停車駅だ。しかし停車する列車が少ないため、いざという時に頼りにならない。

13時07分発の糸崎行き各駅停車に乗った。糸崎は往年の蒸気機関車ファンにとって思い出深い駅である。この地域の蒸気機関車の基地であり、山陽本線の特急牽引機や、呉線の工場地帯へ向かう重量級貨物列車の牽引機が所属していた。デゴイチ、シロクニなどトップスターのアジトだった。映画監督小津安二郎の代表作『東京物語』で、冒頭と終わりに登場する機関車が糸崎機関区所属機で、笠智衆が演じた主人公の住まいは呉線の沿線にある。


線路はくねくねと曲がって高さを稼ぐ

その蒸気機関車が苦戦したセノハチを、国鉄時代製造の115系電車が軽快に駆け抜ける。沿線は緑が茂り、なるほど山の中だと思わせた。線路は山肌に沿うように右へ左へとカーブしている。蒸気機関車時代の線路である。長いトンネルで貫こうとしないで、曲線で距離を稼いで勾配を抑えている。その苦労の痕を、まったく平坦地のように電車が走りぬけた。


八本松駅で峠は終わり

西条駅にさしかかるとEF66形電気機関車が待機していた。ここに機関区があるのだろうか。私はセノハチ超えの貨物列車が瀬野駅と八本松駅で補機の連結や開放をすると思っていたけれど、携帯端末で調べてみると、現在はこの西条駅と、広島貨物ターミナルで実施しているそうだ。でも、この駅にはEF66形一台しか見当たらない。彼は補機でもないのに、なぜここに留まっているのだろう。


西条駅にEF66がいた

峠道は西条で終わったけれど、沿線は丘陵が続く。西高屋駅を出ると、車窓右手に小さな川が現れた。入野川である。水遊びも楽しめそうな姿であった。大幹線の山陽本線は三原までこの川沿いを走る。ただし川の名は入野駅の先、河内駅の手前で変わる。沼田川と合流するからだ。

川の対岸の山の向こうには広島空港がある。飛行機の姿は見えない。広島空港は中心部から離れた山間空港として揶揄されている。新幹線と航空機のシェア争いで、本来なら飛行機が勝てそうな距離が、このアクセスの悪さで新幹線に利している。


空高く山陽自動車道

広島県や広島市は、広島空港をもっと便利にしたいと、もっとも近い河内駅や入野駅、白市駅から鉄道を伸ばしてほしいとJR西日本に懇願しているけれど、JR西日本は敵に塩を送ろうとしない。そうこうしているうちに、来年には広島市の西側に岩国空港が開港する。山口県の空港だが、広島市からは広島空港とほぼ同じ距離かもしれない。


ちょっとだけ見えた新幹線高架

頭上のかなり高いところに道路橋がかかっている。山陽自動車道だ。そういえば新幹線はどうしただろう。地図を見ると、新幹線はほとんど山の中で、地上区間はほんの僅か。なんとか立体交差部分で高架橋を確認できた。

車窓右手、沼田川の幅が広くなっていた。そろそろ海だなと思っていると、やっと車窓左手に新幹線が寄り添った。高いところにあるもんだなと右を見れば、呉線の線路が合流する。見上げたり左右を見たり、首から上だけが忙しい。


呉線の高架橋が近づいてきた

-…つづく

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。

<<杉山淳一の著書>>

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■著書
『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法: 時刻表からは読めない多種多彩な運行ドラマ!』


列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法
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