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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第495回:貨物鉄道博物館のご開帳 - 三岐鉄道三岐線 1 -

更新日2013/12/05


三岐鉄道北勢線と三岐鉄道の三岐線は、員弁川を挟んで平行している。北勢線の阿下喜駅と三岐線の伊勢治田駅は約2kmの道のりだ。徒歩で30分の見当である。のんびり歩いて行きたいところだけど、貨物鉄道博物館の開館は16:00まで。もう14時半を過ぎたから、伊勢治田まで歩き、そこから隣の丹生川まで電車に乗る、では間に合わない。そこで私は駅前からタクシーに乗ろうと思った。

ところが、さっきまで阿下喜駅前で客待ちをしていたタクシーがいない。新たなタクシーは次の電車の到着まで来ないだろう。となると、電話で呼び出すしかない。駅の貼り紙でタクシー会社の電話番号を見つけた。電話をかけると10分ほどで着くという。この際、丹生川までタクシーで行ってもらおう。ちょっとお金がかかるけど仕方ない。時間を買えるなら買いたい心境であった。


ボランティアの送迎バスで丹生川へ

そんなとき、駅前に白いバスが入ってきた。方向幕には臨時とあり、フロントガラスに阿下喜―丹生川と書いてある。そしてバスは軽便博物館に横付けした。あれ、路線バスもあるんだっけ。しかしちょっと様子が違う。ナンバーが白い。これは路線バスではない。送迎バスだ。そんな用意があるとは知らなかった。軽便博物館のWebサイトにも、貨物鉄道博物館にWebサイトにも、バスがあるとは記載されていなかった。

近づいてみると、運転士さんと乗客が談笑している。しかも乗客はお弁当を食べていた。このバスについて運転士さんに訊いてみた。なんと、彼はこのバスの所有者で、バスファンが昂じて中古のバスを購入し、ボランティアでふたつの博物館を往復しているという。だからナンバーは白。運賃箱はあるものの、お金を入れてはいけないという。せっかくだから、彼の自慢のコレクションに乗せていただく。


貨物鉄道博物館は月1回の開館

バスの車内からタクシー会社に電話をかけてキャンセルした。理由は訊ねられなかったので言わなかった。バスが来たから、と言えば、オーナーの運転士さんはタクシー会社から営業妨害で怒られてしまうかもしれない。あるいは、タクシー会社もボランティアバスを知っていて、理由を訊くまでもなかったか。

お金は入れないで、と言われたけれど、路線バスにタダ乗りしているようで落ち着かない。そうだ、寄付ならいいですよね? と断って、都営バスの料金分の小銭を入れてみた。チャリン。よかった。シートのすわり心地が少し良くなった。

春の青空の下、バスはスイスイと走っていく。途中に停留所はなく、信号もなかった気がする。ノンストップだ。約10分で貨物鉄道博物館に到着した。これで1時間ほどたっぷり見物できる。

貨物鉄道博物館は、日本で唯一の貨車専門の博物館だ。こちらも軽便鉄道博物館と同様に、ボランティアが運営し、運営費は寄付金である。ボランティアと言っても、三岐鉄道の駅に隣接している。それらしき表示はないけれど、三岐鉄道が応援しているのだろう。

三岐線の踏み切りに面したところに鉄道車庫のような建物があって、壁に大きく「貨物鉄道博物館」の文字とイラストが描かれている。10人ほどの見学者、数人のボランティアスタッフがいた。建物に入る前に、記念品売り場で寄付したいと申し出た。軽便鉄道博物館と同じくらいの、つまり、ロードショー映画1回分ほどを進呈する。


館内のジオラマ。貨物列車が走る

今日の私は気前が良い。その理由は、鉄道趣味のブログで若干の広告収入が発生し、数日前に銀行口座に振り込まれたからであった。貧乏ライターだからお金はほしいけれど、この収入はブログの読者のお陰で得たわけで、何らかの形で還元したい。そこで今回は、鉄道趣味のボランティア活動に敬意を表そうと思った。つまり映画2本分の収益を還元した。今日は初めから寄付するつもりで、財布とは別にしておいた。

展示館の外に実物の車両が並び、展示館内は小さいながらも鉄道模型のジオラマがある。Nゲージは三岐鉄道がテーマで、HOゲージは貨物列車が走る。まさしくミニ博物館だ。貨車に掲げた荷札などがガラスケースの中に並んでいる。パネル展示もたくさん。奥には子供用にプラレールで遊べるコーナーまで用意されている。


明治時代の蒸気機関車

建物の外に回ると小さな蒸気機関車がこちらを向いていた。B型39号といって、日本鉄道が1898年にイギリスの会社に発注した機関車だ。私が生まれる前の年まで東武鉄道で活躍し、引退後は昭和鉄道高校で保存されていた。同高校の校舎建て替えに伴い解体処分されるところを、三岐鉄道が引き取ったという。

この機関車につながるように、木造の有蓋貨車、無蓋貨車が並ぶ。その先の車掌車は修繕工事中のようだ。さらにタンク車、ホッパ車などが続く。今はほとんどの貨物列車がコンテナになってしまったけれど、私が子供の頃は、用途専用に作られた貨車がたくさんあった。多摩川の鉄橋で貨物列車が通ると、首を左右に振ってひとつ一つの貨車を確認したものだった。


巨大貨車シキ160

長い構内をさらに進むと、なんと大物車が鎮座している。これは圧巻の大きさだ。シキ160形といって、変圧器などの大型装置を運ぶために作られた。クレーンや鉄橋のような大きな搭載部があり、その両側を6軸の台車が支えている。つまり12軸もある貨車だ。こんな車両を間近に見られるとは得した気分である。惚れ惚れする黒光り。呆然としてしまった。


6軸台車。メカニカルな感じがいい

我に返って引き返すと、ボランティアスタッフさんがやってきた。シキ160を見て感動する来訪者は脈ありと思ったようだ。良い機会だと思い、こちらからもいろいろと質問してみた。昔の貨車はいろんな所にレバーやハンドルがあり、仕掛けだらけである。ホッパ車の扉の開閉を体験させていただく。映画1本分どころではない、有意義な体験であった。


こちらはホッパ車。砂利や石炭を積む


ハンドルを回すと側面の下部が開き、ここから荷物を下ろす

20分ほどスタッフさんを引き止めてしまった。お礼を言おうとしたら、他のスタッフさんが声をかけてくださる。三岐線を機関車が通るという。重連の茶色い電気機関車が走っていった。その姿を目で追って、あらためてスタッフさんにお礼を伝えて辞去する。15時50分。ちょうどよい時間だった。東京を午前に出発して、三重県のふたつの博物館を巡った。これから明るいうちに三岐線の終点まで乗ってみようと思う。なんと有意義な一日だろう。


三岐線を現役の電気機関車が通過


遠くにある鉄橋を渡っていった

-…つづく

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杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。

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『A列車で行こう9 Version2.0 プロフェッショナル 公式ガイドブック』 杉山淳一著(株式会社(エンターブレイン)

http://www.a-train9.jp/professional/


『A列車で行こう9 公式エキスパートガイドブック』
杉山 淳一著(株式会社エンターブレイン)





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杉山 淳一 著(リイド文庫)





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杉山 淳一 著(リイド文庫)


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