第42回：Guilin （５）更新日2007/01/25
こののんびりした景色の陽朔で、いくらビザの期限が限られているとはいえ、これまでの上海や北京と同じようなペースでアクセク動き回るのもどうかと思い、川下りで半日を費やした後は、特に何もせずにのんびりと陽朔の町で過ごすことにした。
午後もまだ早い時間に宿に戻ると、そこではせっせと忙しそうに宿の掃除をしている店の女将さんがいた。彼女はほとんど英語ができなかったのだが、まったく英語の話せない人ばかりと接してきたこれまでの中国の旅を思えば、まだ意思の疎通ができるだけでもありがたいと素直に思えた。
この女性は張さんといい、弟と一緒に観光客の押し寄せるこの陽朔に宿を持とうと決めて、1年前にこのゲストハウスをオープンしたのだと話してくれた。確かに新しい宿だとは思っていたが、1年前にオープンしたばかりといわれればその理由にも納得である。そして、これからは欧米人や日本人のお客を一人でも増やすために英語の勉強も始めたのだという。
この張さんと同じような夢を描いて集まる人が多いのか、この陽朔ではこの手のゲストハウスやカフェが建設ラッシュで、町のいたるところで古い建物が壊されては、新しいものに建て変えられている姿を見かけることができた。その勢いは、この調子だとこの山間の狭い土地にひしめく建物は、そのうち全て欧米人相手の商売に変わってしまうんじゃあないのかという幻想を覚えるほどですらあった。
ふらっと町を歩いた後は、バックパックに詰め込んでいた本を持ち出して、西街にあるカフェへ向かった。そういえばこういうカフェにもずいぶん長い間来ていない気がする。よく考えてみれば上海や北京にもカフェはあったのだから、本当のところは別にそんなに前というわけでもないのだが、ここに着くまでは漢民族特有のエネルギーに押されっぱなしで、こうやって心底のんびりはできなかったというのが本音だろう。
その中国らしからぬのほほ～んとした誘惑に負けてしまうのか、町を歩いている時やカフェに腰をかけている間によく目にしたのは、明らかに「沈没」してしまっている欧米人たちの姿であった。この沈没という言葉は、長旅をした経験のある人であれば一度ならずとも耳にする言葉だろうし、自らもそういった類の経験があると思うのだが、旅に疲れたり、現地の女性や男性と恋に落ちたりといろいろな理由はあるにせよ、常に移動を続ける旅人生活を休止させ、その土地に絡めとられてしまうような状態のことである。
個人旅行者に厳しいこの国で、風光明媚に秀でたこの山間の小さなオアシスのような町に出会ってしまい、何をするでもなく沈没している欧米人がかなりいるのが、ぱっと見ただけでも相当数いるのは間違いなかった。まあ自分の場合には、まだ旅を始めたばかりということもあって、この地で沈没という気分でもなかったが、彼らの気持ちもわかるような気がするそんな町であることは確かだった。
－…つづく
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