第26回:Shanghai (5)更新日2006/07/20
上海のスモッグにくすぶる空の下、うろうろと一日中外を歩き回った後で鼻をかんでみると、自分の体から出てきたとは思えないようなヘドロ色をした鼻水がティッシューについていた。
そんなティッシューを眺めていると、素晴らしい歴史的な遺産に触れることができたり、急速な経済発展の現場を目にすることができるという喜びとともに、中国を旅するというのは、その分あまり歓迎できないことも多いのだということを改めて思い出させてくれた。
「メイヨー」もその不愉快なことの代表的なもののひとつで、そこから先も数え切れないほど聞くことになったのだが、それに加えて気持ちを苛立たせたのは、ただぶらぶらと街中を歩いているだけでも、気のせいか強い視線を向けてくる人がたくさんいたことだ。そしてそんな人達の中には、日本の暴走族さながらに、こっちが見返すとさらに強烈な視線を浴びせ返してくる場合すらあった。
この視線が余りに気になり、エリカなどはこの街を歩くのはもう嫌気がさすと、何度も何度もこぼしていた。自分も中国人の友人はそこそこ持っており、上海出身の科学者や医者の同僚が数人いたので、あまり悪くは言いたくないのだが、この街が発展途上にあるが故に生じる棘々しさというものが、そこかしこに感じられて、上海にはとても住みたいとは思えなかった。
基本的に現地に入ったら、いつもローカルな人達の住む場所を歩くのが好きな我々は、そういう気分を味わっているにも関わらず、懲りずにこの上海でもいわいるゲットーへ行ってみたのだが、そこには近代的な大都市が持つ貧困と荒廃が漂っていた。
明らかにその日の食事にも苦労していそうな人達がいる通りへ入ったときには、ただでさえ強い視線を持つこの街の人達なのに、ここでは彼らは視線が合うのをを避けることなく、ごく当然といった感じで余所者に対して暴力的な視線を流してきた。こんな場所へ来るほうが悪いのだが、やはりこういう無茶をしてしまうのは生まれながらの性分なのだからしょうがない。
こちらも傍から見れば戦闘態勢に入ったような目線をしていたのであろうが、それでもなんとかその地区を抜け出して、ボロ家屋が壊されて新地にされている見晴らしのよい場所へ抜けた。
その新地から通して見える上海の高層ビルが、想像でしか見たことがない戦後の東京を髣髴とさせた。
-…つづく
第27回:Shanghai
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