第9回:Greyhound (1)更新日2006/02/16
サイクリングを終えて、ようやくこの街での時も終わりにしようという気持ちが固まり、いよいよ明日は友人の待つモントレーへと向かうことにした。やはりそうなると最後の夜は、サンフランシスコ名物のチャイナタウンでディナーを摂らなければと決めたのだが、注文を終えて料理が出てくるのを待つ段階になって、"ふと"これから嫌になるほどチャイニーズフードを食べることになるだろうに、ここは素直にアメリカっぽいものを食べるべきだったかなあなどとつまらないことを考えてしまった。そういうしょうもないことにきちんと頭を悩ませれるようになったということは、いよいよ旅のペースに浸ってきたのかもしれない。
食事の後で、例の格安の値段を提示してくれたアラブ系のカメラ屋を再び訪ね、値段の交渉を始めようとしたのだが、まだ顔を覚えていたのか、今度は店に入るなり怪訝そうな目つきで見られてしまった。それでも怯まずに前回の安値で交渉を始めようとすると、わかったわかったもういいから他をあたってくれと素っ気ない態度。同じ店員なのにこの態度の急変振り、まったくもってこういう類の店での値段交渉は、いつもながらその時の店員の気分しだいで大きく左右されてしまう。懲りずにまた出直してくるのも手は手なのだが、すでのこの街を出る気持ちは固まっているし、この勢いを逃したくなかったので、ここでの交渉は諦めてカメラを手に入れるのは香港までお預けにすることにした。
翌朝、グレイハウンドというアメリカ国内を網羅しているバス便のターミナルへ向かった。ここからモントレーまではこのバスで4時間余り、そうたいした時間でもないので簡単な本でも読んでいればやり過ごせる。バスターミナルの雰囲気は流石に空港のターミナルの雰囲気とは別物で、ゲームボーイ片手に画面に熱中する若者や、うわ言とも白昼夢ともつかない独り言をぶつぶつと空中に向かって吐き続ける中年女性など、自家用車を所有できない層や財布の軽い学生の帰省といった客層がほとんど。しかしながら、このバスが自分たちにもぴったりだということも考えると、なんだか少しばかり愉快な気持ちになってくる。
バスの運転手はなかなかに面白い黒人男性で、出発前の「新聞、ラジオ、小説は良いけど、たばこ、マリファナ、エロ雑誌は遠慮しとくれ」といったノリのアナウンスから始まって、移動中にハイウェイ越しに見かける何でもない景色を、客席へ向かってラップ調でいかにも見所だといわんばかりのテンションで、どこまでがウソでどこまでが本当かわからない説明をしてくれたりと、聞き取りにくい黒人訛りで捲くし立てるのを別にすれば、4時間程度の旅にはぴったりの相棒であることには間違いなかった。
サンノゼあたりまでは緑豊かな丘陵地帯が続くのだが、そこを越えると景色は徐々に乾燥した草原地帯へと変化する。そして半ば砂丘と化した海岸沿いをしばらく走った後、あっけなくモントレーに到着した。
-…つづく
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