■TukTuk Race~東南アジア気まま旅


藤河 信喜
(ふじかわ・のぶよし)



現住所:シカゴ(USA)
職業:分子生物学者/Ph.D、映像作家、旅人。
で、誰あんた?:医学部で働いたり、山岳民族と暮らしたりと、大志なく、ただ赴くままに生きている人。
Blog→「ユキノヒノシマウマ」





第1回:Chungking express (前編)
第2回:Chungking express (後編)
第3回:California Dreaming(前編)
第4回:California Dreaming(後編)
第5回:Cycling(1)
第6回:Cycling(2)
第7回:Cycling(3)
第8回:Cycling(4)
第9回:Greyhound (1)
第10回:Greyhound (2)
第11回:Greyhound (3)

 



■更新予定日:毎週木曜日

第12回:Hong Kong (1)

更新日2006/03/10


モニカの研究所で開かれた国際フェスティバルに参加したり、町の日曜市で地元アーティストの作品をひやかしたり、シーズン中には一面に蝶が乱れ飛ぶ観光地として名高い隣町カルメルの公園でピクニックをしたりと、モントレーでの静かな数日を過ごした後、アジアへ飛ぶために一旦サンフランシスコへ引き返して空港へ向かった。

いよいよ念願の東南アジア旅行が始まると思うと、気持ちは抑えようとしても抑えきれないほどに高まる。空港での待ち時間がかなりあったので、日本でよく飲んでいた懐かしい「午後の紅茶」をなんとなく買ってみた。すでに夜も遅くなりかなり疲れていたこともあって、買うときにはこれといって何も意識していなかったのだが、待合室のシートに戻って缶を開ける時に、この品がここアメリカでは輸入品であること、購入場所が空港内であることを考慮しても3.5ドルは高いよなあなどと考えさせられてしまった。その時の缶ジュース1本の価値については、アジア旅行中に事あるごとに思い出したものだ。

サンフランシスコ-台北間フライトは、これまでのフライト経験でも最悪のコンディションで大揺れに揺れまくり、途中で幾度か隣に座っていた女性の祈りに近い小さな悲鳴が耳に届き、自分自身も初めての車酔いならぬ飛行機酔いで10分ほどもトイレで吐き通し。トイレの中にいる最中も当然のことながら揺れ続けるので、体を固定するのと、服を汚さないないように事を済ますのでなんとも大変な思いをさせられてしまった。

それでもスケジュール的には、予定通りに早朝の台北へ到着。当初の計画では、ここで夜の香港へのフライトまで一日市内観光をする予定だったのだが、とてもじゃあないが体調はそれどころではない。一刻も早く目的地に着いてベッドで横になりたかったので、しらばく空港で休んだ後でフライトを繰り上げてもらい早々に香港へ向かった。

トローリと濃厚な湿気を大量に含む暑い空気が体を包む。ただでさえ疲れて重い荷を背負う身には、この汗ばむような亜熱帯の気候が堪える。空港の扉を開けて外へ一歩出たとたんにこれだ。これでは先が思いやられる。ただしこの暑さに文句を言っているよりは、早く今夜の宿を確保して横になりたい。街までのバスチケットを購入し、再度束の間のエアーコンディションを車内で楽しむ。

空港のあるランタオ島から目的地カオルーンまでの道のりは、綺麗に整備されたハイウェイと島伝いに掛かる巨大な橋が、ここが発展した都会であることを認識させてくれる。車窓から見える高層アパートメント群も、アメリカの殺風景なものとはまったく違って、ブレードランナーにでも出てきそうなデザインで近未来映画を見ているようだ。

バスがカオルーン地区に近づくにしたがって、郊外の近代的な高層アパートメント群とは似ても似つかぬ、新旧入り混じってごちゃごちゃとしたカオスが支配する、ポストカード的イメージの香港へと変化していく。道の両側にはもうこれでもかというくらいに並ぶ貴金属店、電気製品店、食堂の数々。そしてこれまたとんでもなくど派手で巨大な看板の洪水。看板もこれだけ装飾過剰だと、全体としては香港らしい複雑さを象徴するのに一役かっているのかもしれないが、それら一つひとつはまったくもって意味をなしていない。そんな景色を横目にくねくねと入り組む香港の街をバスは走り、今日の目的地ネイサンロードへと少しずつ近づいていく。

土地価格急騰の煽りを受けて、上昇した香港の宿賃。 ましてや観光客がどっと集まるここネイサンロードにあって、秩序のない都市にぽっかり空いたブラックホールのような時代錯誤のバックパッカー伝説のビル。そう其処が今日の宿の予定であるチョンキン・マンションである。

…つづく

 

第13回:Hong Kong (2)