第32回:Peking (3)更新日2006/10/26
宿を出て北京の空気を感じるために、街を少し歩いてみる。人も多いし、相変わらず自転車やバイクの群れは凄まじく、道路を横断するのにも一苦労だが、この街の雰囲気はあきらかにこれまで通過してきた香港や上海とは違う。
これが南方と北方の違いと決め付けるのは余りに短絡的だが、傍目にも道行く人の背丈や顔つきが違うのが見て取れる。そして服装も、先の2都市が、おしゃれな若者などは日本と変わらないようなブランド物に身を包んでいたのに対して、この街では誰も彼もがまるで時代遅れのファッションセンスなのである。もちろん高層ビルや高級車もまだまだ少ない。
しばらく歩いてみたのだが、この街はアメリカでいうとLAと同じようにどこがセンターというはっきりしたものがなく、点々と見所や繁華街が広大な市内に散らばっている感じだった。半日ほどぶらぶらと歩き回った後で、新しく建ったばかりのデパートメントストアの地下にある、フードコートで昼食をとることにした。
そこには日本の吉野家や、シュークリーム屋、すし屋、すき焼き屋、ラーメン屋などなど、日本食の店が意外なほどに充実していたが、できれば現地の料理が食べたかった我々は、周りの中国人たちが多く食べていた、鍋のようなものを指で指して注文してみた。
熱々の鍋から湯気がたち、豆腐、野菜、肉が溢れるほどに入ったそれは、腹が減った身にはかぶりつきたくなるほどおいしそうに見えた。一口スープをすくって飲んでみる。
「旨い!」
それはこの旅の中でいろいろ食べてきた中でも、3本の指に入るほど旨かった。そして熱々の肉をとって、ふうふうと息を吹きかけて少し冷ました後で、口に入れてみる。
「おやっ?」
別に不味くはない。が、しかしそれは今までに食べたことのある、どんなタイプの肉とも違う味がした。
見た目は牛肉のようである。でもこんな食感の牛肉は食べたことがなかったし、あの牛肉特有の匂いもしない。腹も減っているし、そのまま食べ続けてもよかったのだが、どうもひっかかるところがあって席を立って食堂へ戻った。
店員は若い女の子で、ここが中国であることを忘れさせてくれるほどににこやかであった。ただ英語がまったく理解できないので、言いたいことを伝えるのに苦労したが、中国に入ってから愛用しているペンとメモ帳を取り出して、この鍋に入っている肉が何であるかを問いただしてみた。
彼女はしばらく私が何を伝えたいのか戸惑っているようだったが、やがて理解したらしく、ペンをとりメモ帳へ一言書いた。
「狗肉」と・・・。
-…つづく
第33回:Peking
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