第31回:Peking (2)更新日2006/10/19
中国ではなかなか思い通りに手に入らないこともあるので、用心が必要な列車の切符を確保したところで、次は宿探しであった。ただ北京というところは、相当に広くて見所も分散しているので、何処に宿をとるかというのはなかなか問題であった。
しかもこの北京駅というのは、ここに宿をとりたくなるような場所にまったく位置していない。そこで駅から自分の気に入った場所へ向かうには、タクシーを利用することになるのだが、タクシー代やら宿代のことやらを考えると、この駅前で外国人を待ち構えている呼び込みについて行った方が、結局は値段も時間もセーブできるということになる。
上海と同じく北京も、物価が高いこと、人が性格的に厳しいこと、英語がほとんど通じないことなどもあって、貧乏旅行者やバックパッカーには人気がない場所であった。そういうわけで呼び込みの方も、少ない客を逃すまじと気合が入っているのだが、こちらとしてはそこにつけこんで、多少なりとも値下げ交渉をうまく成立させたいところだ。もちろん向こうも歴戦のプロ、しかもここはあの中華圏の首都なのであるから、交渉はそうそうこちらの思う通りにうまくはいかないことは覚悟しなければならないが。
なんとかその中の一人と交渉をまとめて、仲間の無料タクシーで紹介された宿へ向かう。ホテルが近づいてくると、エリカがなんとなくこの辺りには見覚えがあるという。彼女は以前に大学の研修旅行で、3ヶ月ほどアジアを周った経験があるのだが、その時にこの近辺に宿をとったのだという。そしてこのタクシーが我々を連れて行ってくれたのは、なんとなんとエリカが以前に泊まったホテルであった。
こんな偶然もあるのだろうか? なんて初めこそ単純に考えたが、そこは開放されたとはいえ共産圏、外国人が泊まれる区域やホテルもある程度は決まっているのだろう。近づいてよく見ると、このホテルなかなかに豪華である。しかもホテルから出てくる白人客は、明らかにある程度の地位を持っていそうな年齢と服装である。
「本当にこんな豪華なホテルに、あの提示額で泊まることができるのだろうか?」、「しかし騙すにしてもこんな豪華なホテルのロビーで貧乏旅行者とやり合うのは、向こうにとっても決していいやり方とは思えないから、そんなこともしないだろうな・・・」。そんなことをいろいろと思いながら、タクシードライバーに連れられるままに、駐車場からホテルの建物へ一緒に向かって行った。
しかし、世の中そんなに甘いものではない。このタクシードライバー、タクシーはホテルの駐車場に止めたのだが、我々を従えて進む方向は、ホテルのロビーではなくて、その建物の脇を通って裏へ周り込んだ、うらびれたモーテルみたいな所であった。
「まあ、あの値段で本館の豪華なホテルに泊まれるわけはないよなあ」、などと妙に納得しながら、彼に従ってチェックインを済ませ部屋へ入った。
値段のことを考えると、部屋自体は別に悪いものとも思えなかったが、面白かったのは、他の部屋から廊下へ出てきて煙草をふかしたり、雑談している人たちは、どうみても地方から出稼ぎに来ている従業員たちなのである。
結局、ここに泊まっている間は、その人たちと共同のトイレとシャワーを使い、なんだか自分もここで働いているような気分にされてしまった。
-…つづく
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